Ozmafia SS集 2018- enty.jp


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2018年12月 限定SS『なんでもない日・前編』

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「……よかった、今日も何もなかった」

 グリム領は平和そのもの。
 問題など滅多に起こらないものの、
 トラブルはいつどこで発生するかわからない。
 
 課せられたわけではないが、
 領内の見回りがいつの間にかスカーレットの習慣になっていた。

(ハーメルンさんは、こういうこと向いてないからな)

「見回り」という言葉を口にした1時間後、
 酒場で飲んだくれているところを発見したことが何度あったか。

(だから、僕がしっかりしないと)

『小さく、幼く、ひ弱そうな見た目』

 永遠に変わることのない外見は、
 スカーレットを「大人らしく振る舞うこと」という呪いで縛ってしまった。

  ◆   ◆

 ――グリム領、一際目立つマフィアの屋敷にて。

 ドアを開けた瞬間、甘ったるい香りが粉爆弾のように僕の体を包み込んだ。
 内臓いっぱいに広がるそれに、思わずせき込んでしまう。

「なんだ、この匂い……」

 背負った銃を持ち直しながら、周囲を伺う。
 
 ……誰もいない。
 ボスはおろか、 物騒な双子さえも。

「ハーメルンさん! ……ヘンゼル! グレーテル!」

 順々に名前をあげていくが、反応はまったくない。
 気配さえもないのが不気味だ。

「いったいなんなんだ……?」

 菓子やパンを日常的に作っているため、
 匂いがすること自体は珍しくないものの。

(こんなに濃いのは初めてだ……。
 お腹いっぱいの時に嗅いでたら、吐いてたかも)

 ぐっと器官を逆流してくるなにかを必死に無視しながらを押さえながら、ドアを閉める。

(いや、匂いを逃がすために、開けたままのほうがいいか……?)

 ドアノブに手をかけたが――。

「やめておこう。
 この匂い、もはやテロだ」

 どれほど拡散力があるかはわからないけれど、
 他ファミリーに知られたら面倒ごとになりそうだ。

(アクセルさんとか、アンデとか……。
 来る、絶対に)

 はあ、とため息をついて廊下の先へ視線を向ける。
 
 嫌だが、真実と向き合わなくてはいけない。
 ……本当に、嫌だけど。

「何も聞かされていないということは
 十中八九、僕への嫌がらせに違いない」

 そうだ、そうに決まっている。
 
――誰が?
 
(ハーメルンさん、もしくはヘンゼル、もしくはグレーテルが)

――どうして?

(暇つぶしか、いたずらだろうな)

 僕だけで導き出した答えは、大抵が悲観的だ。
 そのほうが、はずれた場合ほっとするし
 当たった場合も「ほら、やっぱり」と納得できる。

(あの3人にありがちな、子どもっぽい無意味なからかいだ。
 僕は大人なんだから、ちょっと反応してやればいい。
 ……ほらみろ、簡単だ。大丈夫。わかってるんだから何も問題ない)

 そう自分に言い聞かせ、一歩踏み出す。

(よし、この調子。
 なんだ、できるじゃないか。
 僕ならできる、できる……)

 思いつく限り言葉をひねり出し、思考の隙間を埋めていく。
 ……こうでもしないと、足が止まってしまいそうだから。

(誰が好き好んで、罠にひっかかるというんだ)

 はみ出した本音をぐっと押さえ込みながら、匂いの根元へ近づいていく。

(ダイニングルームか。僕の部屋じゃないだけよかった……のか?)

 半開きのドアが怪しすぎる。
 狩猟初心者でも、もっと上手くやるに違いない。

「いったいなにを――」
「「おめでとう、スカーレット!」」

(……?
 …………?)

 ドアを開けた瞬間、更に増した匂いにごほっとむせた。
 けど、そんなことは今はどうでもいい。

「ハーメルンさん、ヘンゼル。それに……」

 声こそ発さなかったものの言わなかったものの、
 ヘンゼルのすぐ後ろにグレーテルがいる。
 どんよりとした笑顔だ。機嫌がいいらしい。

(おめでとう、って一体何が?
 ……罠にかかったことを祝福されているのか?)
 
 それだ、と思える答えが見つからずスッキリしない。
 
 僕が聞き返すよりも早く、ハーメルンさんは僕に近づくと
 頭をガシガシと乱暴に撫でた。

「なんでもない日おめでとうだ、スカーレット!」
「なんでもない、日……?」

 答えを聞かされてもなお、
 僕の頭は強烈な匂いと意味不明な仲間の行動に惑わされたままだった――。

<後編へ続く>


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2018年11月 限定SS『お腹』ハーメルン・スカーレット
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グリムの屋敷にて。

 

 窓から射す光は温かいものの季節はすっかり冬だ。

 施錠をしっかりしなければと窓枠に手を伸ばしたスカーレットのもとへ誰かがやってきた。

 

「おお、いいところに」

「ハーメルンさん……」

 

 スカーレットは相手の名を呟いた後、周囲を確認した。

 ……誰もいない。ということは――。

 

(いいところに、というのは僕のことか)

 

 伸ばした手を引っ込め、体ごとハーメルンへと向ける。

 

「僕に用ですか?」

「ああ。それ貸してくれない?」

 

「それ……」と復唱しながら視線をたどる。

 

「……僕の服?」

「っつーより外套。お前さんのトレードマークのさ」

「嫌です」

 

 ハーメルンは「即答かよ」と笑いながら自身の首に手を当てた。

 

「なんで? 体の一部ってワケじゃないだろう」

「それはそうですけど。ハーメルンさんに貸すと汚れそうだ」

「うっわ、なんだその理由。泣けるね!」

 

「……ま、汚しそうって点は否定しないけど」と顎に手を添え首を傾げる。

 

「あ。赤ワインだったら問題ないんじゃねえか? 赤だし目立たないだろ」

「目立ちますよ、シミになります」

 

「色の問題じゃないです」と腕を組み、一歩近づきハーメルンを見上げる。

 

まったく……一体何を企んでいるんですか?」

「企んじゃいないって。たださ、最近……」

 

 ハーメルンはスカーレットの真似をするように腕を組みつつ、二の腕を擦る。

 

「最近……すごく寒いだろ」

「はあ」

「だから、防寒着として貸してくれないかなーって」

「……」

 

 返事の代わりに大きなため息をついたスカーレットに、

 ハーメルンは「いいのか」と目を輝かせた。

 

「いいわけないでしょう。無理です、嫌です。

 絶対深い理由じゃないって予想してましたけど。予想通りすぎて呆れました」

 

 はあ、と肩を落としながら言葉を続ける。

 

「僕の外套を欲しがる前に、服を新調するのはどうですか? 露出を控えれば寒くないはずです」

 

「そうかー?」とハーメルンは視線を服に落としながらくるっと回ってみせた。

 

「でもこれ、俺のアイデンティティみたいなところあるじゃん?

 腹出てなかったら、俺だって判別できないだろ」

「できますよ!」

 

「なんでお腹で判断してるって思ってるんですか」誰よりも子どもだなと思いながら、スカーレットは決意したように大きく頷く。

 

「……わかりました。僕が作ってあげます」

「作る?」

「はい。ハーメルンさん専用の腹巻きを」

「あー……パス」

 

 予想外の答えに、スカーレットは「なんでですか」と目を丸くする。

 

「腹巻きって、ほらこう……オブラートに包んだ言い方をすると……ダサい」

「包んでない! ダサくないですよ」

「いやダサいだろ。ファミリーのボスが腹巻きって。泣ける」

「寒空の下でお腹丸出しのほうがよっぽど泣けます……決めました、絶対作りますから。今年の冬は必ず着用してくださいね」

 

 口をへの字に曲げるスカーレットを見下ろしながら、ハーメルンも「えー」と口を曲げる。

 

「えーじゃなくて」

「はーい」

「それでいいです。……って。こんなやりとりしてるとどっちがボスかわからなくなるな」

「身長低いのがボスなワケねーだろ? おちびスカーレット」

「なっ。頭を撫でないでください!」

「腹巻きかぁ。可愛い部下が作るってんだからな、楽しみにしておいてやるよ」

 

 ハーメルンはスカーレットの肩をぽんと叩き、歩き始めた。

 

「アップリケもつけといてくれよな!」

 

 振り返らないまま、注文を付け加える。

 

「……アップリケなんかつけたら、余計にかっこ悪くなるじゃないか。ハーメルンさんはよくわからないな……」

 

 やれやれと思いながらも、頼まれたことが嬉しい。

 自分が信頼されている証だからだ。

 

(どうせだから、ヘンゼル達の分も作ろうかな。

 クリスマスプレゼント……みたいな)

 

 喜んでくれるだろうか。受け取ってくれるだろうか。

 笑みそうになるのを堪えながら、スカーレットは街へ繰り出したのだった――。

 

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Poni-Pachetゆーますです。

早いもので残すところあと1ヶ月ですね!

 

一昨日、始発の新幹線で出張から帰ってきたのですが

京都駅に到着した瞬間に目覚めてバタバタして……

 

危うく携帯電話を新幹線の中に置き忘れるところでした。

 

というか完全に置き忘れていたのですが、

私と入れ違いで座る予定だったらしいおじさまがわざわざドアまで持ってきてくださいました!!

(本当に嬉しかったのでフォントサイズ大きくしました、驚かせてすみません)

ひえ~~~神だ……。のぞみには神が乗車してあそばされていた……。

 

自分は勿論、他人の情報もびっしり入った玉手箱。

私の命の一億倍大切なものなので、二度とこんな経験しないように気をつけますし

名古屋からは絶対寝ないぞ!!! とここに固く誓います。寝ないぞ!!!!

 

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今月にラジオ収録をと思っていたのですが、

キャストの予定がうまく噛み合わず来月に持ち越しとなりました

申し訳ございません!

 

収録は12月7日を予定としております。

 

ぎりぎりになりますが、年内最後のシークレットレイディオ配信楽しみにお待ちいただけますと幸いです!

 

ゆーます


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2018年10月 限定SS『安息の日曜』
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 ――夕方頃、オズファミリー領の大通りにて。

 前方に知人を見つけたカラミアは、ニカッと笑いながら手をあげた。

 

「キリエ、トリック・オア・トリート! なんつって」

 

 キリエはカラミアの前で立ち止まり、肩を竦めると「刺殺・オア・撲殺?」と尋ねた。

 

「なんで俺がイタズラされる側なんだよ」

 

 しかも度が過ぎたイタズラだと付け足しながら、カラミアは首を左右に振る。

 

「今日はハロウィン、しかも日曜だぜ?

 アクセルなんかは張り切ってるってのに、お前は普段どおりだな」

「何をおっしゃい。はしゃがれる方が困るでしょう」

 

 お菓子だお菓子だわーいと騒ぐキリエを想像するカラミア。

 

「ないな……」

「でしょう?」

 

 うんうんと頷くキリエを見ながら、「そういえば」と話を続ける。

 

「なんで日曜は安息日なんだっけ」

「え?」

「日曜協定の話。不眠不休は人間には無理だからって休みが必要だって話してたのは覚えてるんだが……」

 

「なんで日曜なんだろ?」とカラミアは再び尋ねた。

「それは……」

 

  *  *

 

「ねえ、ドロシー。どうして人間には、何もしない日があるんだい?」

「何もしない日?」

「そうだよ。

 花も木も、僕だって――ううん、ボクはダメなカカシだから違うかもしれないけど――毎日生きてる、仕事をしてる。

 けど人間は、何もしない日があるよね。どうして?」

「何もしない日……日曜日のことかしら?」

「日曜日?」

「日曜日は7日ごとにくる特別な日。

 協会に行って、神様にお祈りをする日なの。

 私、日曜日が好きよ。学校がなくて、1日中遊んでいられるもの!」

「へえ、ドロシーの好きな日かぁ。

 7日も待たなくちゃいけないなんて大変だね。増やせばいいのに」

「曜日は増えないわよ。それに、増やしたらつまらなくなっちゃうんじゃないかしら」

「つまらない?」

「ええ。ごちそうはたまに食べるから美味しいのよ。毎日食べたらごちそうじゃなくなっちゃうもの。

 日曜だってそうよ」

「ふうん。カカシは食事をしないからよくわからないけど……。

 ドロシーが日曜日が好きなら、ボクも好きになりたい。なれるかな?」

「もちろん! 時間は誰にでも公平よ。カカシさんも、お休みを楽しむべきよ」

 

「じゃあボクも楽しむ。ボクにとっても、日曜日は特別な日だ!」

 

  *  *

 

 

 稲穂色の記憶を思い浮かべながら、キリエは一呼吸つき

 

「たまたま、ですよ」

 

 と言葉にした。

 少しだけ上がる心拍、揺れる感情を抑えて。

 

 変化に気づけないカラミアは「そうか」と頷いた。

 たったそれだけ。追求もなにもない。

 博識であるキリエがそう言うのであればと納得したのだろう。

 

「貴方の脳みそは空っぽでカスカスでスカスカなんです、無駄な思案に使わないほうがいいですよ。

 ハッピーハロウィン、カラミア」

 

「お、おう。ハッピーハロウィン……」

 

 すたすたと去っていくキリエ。

 ハッピーなどと似つかわしくない言葉の違和感にカラミアは戸惑う。

 

「……ああ見えて楽しんでるってことかね」

 

 キリエの背を見つめる彼のもとへ、小さな領民達が集ってくる。

 

「ボス! トリック・オア・トリート!」

 

「ああ。ハッピーハロウィン!」

 

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「なぜ日曜が大切にされているのか」

設定はあったもののドロシー関連ということもあって表に出していないはず……ということで

ハロウィンにからめて書きました。

 

ライオン、カカシ、ブリキの木こりにとってはなんでもない日ですが

カンザスからやってきたドロシーにとっては意味のある(もしくは、意味のあった)日。

 

学校はお休み。思いっきり遊べる。

日曜は素敵な日。だから日曜にケンカはやめよう。

 

それがいつしか「日曜協定」となった……という流れです。

 

体調に気をつけてたつもりが

乾燥機をオフってたばかりに風邪を引いてしまいました。

人間とは脆い生き物よ……。

みなさま温暖差だけでなく、乾燥にも本当に本当にお気をつけください!!

 

11月中に2018年最後のシークレットレイディオを収録予定です。

シークレットのほうは(本編もぐだぐだしておりますが)

パーソナリティのみなさんはいつも本編以上にリラックスした状態で臨まれており

「サポーターさん楽しんでくれてますか?」と収録のたび聞かれます。

私が間接的に伝えるよりも、メールのほうがちゃんと伝わりますし

なによりキャストのサインをお渡しすることができますので…!

伝えたいこと、聞きたいことがありましたらぜひぜひお気軽にご投稿ください!

 

ゆーます

 


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2018年9月 限定SS『始まりのすぐあと』ソウ

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 靴の魔法で人のカタチを形成したオレは、街を彷徨っていた。

 やるべきことは色々あるけど、まずは『人間』というものを学ばなくてはいけないからだ。

 

 オレの半分はトトという名の小型犬。もう半分は、空を貫く大きな塔。

 人間の目線の高さは、どちらとも全然違っていて。

 それすら、慣れるのに一苦労した。

 

(嗅覚は衰えたし、小回りもきかない。人間って案外不便かも)

 

 ……なんて思いながら歩いていたら、路地裏に入ってしまったらしく。

 ふらふら歩いていたところ、変わった光景に遭遇した。

 

 いかにも悪そうな男達が小競り合いをしていた。

 

 理由はわからないし、知りたいとも思わなかったけど。

 どうなるか結論が気になり、オレはじっと眺めていた。

 

 男の一人が、暴言を吐きながら懐からナイフを取り出す。

 刺すかと思いきや反撃にあった拍子に手から抜け落ちた。

 

 床に転がるナイフに伸びる、2人の腕――。

 

 掴んだのは、刺されかけた男だった。

 必死の形相で、ナイフを振り下ろす。

 

 血が四散した。

 

 続いて、叫び声が響いた。

 

 痛がる様子に手を緩めることなく、がむしゃらに切り、刺し、刻む。

 

 どこか急所に当たったのだろうか。

 十数個目の傷で、敗者は生命活動を終えた。

 

 残ったのは、荒い勝者の吐息。

 その足元には、血まみれの『人間だったもの』。

 

 ほんの数分の間に、人は物へと変化した。

 わずかに痙攣しているようにみえるが、そこに意思はない。

 

 ――で。

 人が死んでいく様子をじっくり見てみたものの、オレの感情はあまり揺れなかった。

 

『こんな形で死と向き合うことになるとは思わなかった』

 

 というのが、率直な感想。

 

 死とはもっと、特別だと思っていた。

 

 神聖だったり。切なかったり。押しつぶされるくらい胸が痛くなったり。

 なのに――。

 

(案外、あっけないものなんだな)

 

 死を初めて目にしたオレは、冷静だった。

 ……むしろガッカリしたかも。

 お気に入りの食器が割れるほうがよっぽどショックだと思う。

 

「――おい坊主、何みてんだ」

 

 気づかれてしまったらしい。

 

 さて、どうしようか。

 

「ごめんなさい、ちょっと気になって」

 

 とりあえず笑ってみる。下手に出れば大丈夫かな。

 

「で、どうする」

 

 男は体をオレのほうに向けた。ついでにナイフも。

 

(あーあ、ダメだ……)

 

 目はギラギラして、怒りに満ちている。

 ジリジリと距離をつめている。

 

 やる気満々だ。

 

「やめたほうがいいと思うけどな」

「はっ。命乞いすらしねえとはなあ――」

 

(だって、する必要がないんだ)

 

 そう思いながら、数分前の男の行動を真似た。

 ナイフを持つ手を強く叩き、床につく前に手に取る。そして――。

 

「うああああ!!!」

 

 斜めに薙ぎ、男の胸を切った。

 

(間近だと本当にうるさいな)

 

 のけぞる男の顎に刃先を当て、突き上げる。

 

 叫び声と引き換えに、ごぽ、と血がこみ上げる音が聞こえた。

 

「……よかった。鼓膜が破れるかと思った」

 

 膝から崩折れる男を見下ろしながら、耳に手を当てる。

 

(殺すつもりはなかったけど)

 

 男は息絶えた。結果的にそうなってしまった。

 

「ドロシー。オレ、人殺しちゃった」

 

 知られたら絶対怒るだろうな。でも……。

 

「知りようがないもんね」

 

 魔女ドロシーは、自身の行いのせいで眠り続けている。

 オレがここに来たのは、ドロシーを目覚めさせるためで――。

 

(眠らなければ、死者はでなかったんだ)

 

「……目覚めないドロシーが悪いんだよ」

 

 なんて。身勝手なことを口にしてみる。

 オレの言葉をきっかけに起きてくれたら最高なんだけど。

 

 そんな奇跡、どれだけ願おうと起こるはずない。

 

「……もっと人間らしくなったら、死を悲しんだりするのかな」

 

 無機物から生まれて間もないオレは、あまりにも心が冷たい。

 

(これじゃ、街の人に疑われちゃう)

 

 ただでさえ異質の存在。

 バレないように、もっと自然に溶け込めるようにならないと。

 

「前途多難だけど……絶対に諦めないよ」

 

 願いこそがオレの存在意義だから。

 

「興味深い経験をありがとう、おじさん」

 

 ナイフを地面に捨て、死体に礼を言ってみたものの――。

 

(死体に喋りかけるのってどうなのかな? こういう時って何するのが正解なんだろ)

 

 早くお手本、見つけなくちゃね。

 

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ソウ単体のSSでした。

塔と犬のハイブリッド(?)のソウは、
生まれたばかりの時は不気味だったと思います。
回想でハーメルンと話している時も淡々としていましたが、それを上回るような。

 

どのファミリーにも属していない&無法者集団ウォールフガングの一員であるソウが
街のど真ん中で警戒されずに飲食店を営めていることがまず異質なんですよね。毒仕込まれてるかもしれないのに、「ソウは人畜無害そうだから大丈夫でしょ」で済んでる。

 

あの街の住人は支配者層含め、違和感を抱かない=ソウの術中にはまっていた

 

ソウは闇が深い。と思います。


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2018年8月 限定SS『クサクサライオン』カラミア(+パシェ・キリエ・アクセル)
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「――では、失礼する」

 

 日曜日、オズファミリーの屋敷内にて。

 1時間ほど前訪ねてきたパシェが立ち上がると同時に、ソファが微かに軋む。

 

「わざわざ来てくれてサンキュな」

「ここは我が領から近くない。心から感謝してくれ」

 

 カラミアの言葉に微笑を浮かべ、パシェは前屈みになった。

 テーブルの上に置かれた紙を三つ折りにし、胸元にしまう。

 

「勿論だ。俺がそっちに行くときは、土産を持ってってやるよ」

「ほう。それは楽しみだ」

「ところで……」

 

 言いかけたところで、カラミアは黙ってしまった。

 沈黙の中、雨の音がさらさらと響く。

 

「……ところで、なんだ?」

「言いづらくてさ……。

 言ったら引かれそうっつか、引かれるんだよな確実に……」

 

 口をもごもごしながら、カラミアはちらっと窓の外を見た。

 何があるというのだと、パシェも視線を向けるものの。

 

(何が何やら、さっぱりわからん)

 

 パシェはコホンとわざとらしく咳をつき、カラミアのいる執務机に近づいた。

 

「言い出したのだ。斬られたくなければ最後まで言え」

「お前……俺の屋敷の中で剣を抜くってのかよ」

「大丈夫だ、正当な理由がある」

「不正当だろ、おっかねえ……」

 

 カラミアは「わかった」と両手をあげ、大きく息を吐いた。

 

「ネコねーちゃんさあ……風呂、週に何回入ってる?」

「はあ? ……はあ!?!???」

 

 パシェの声が裏返り、頬は赤くなり、尻尾が膨らみ、わなわなと指が震える。

 

「いや、やましい気持ちはなくてさ。純粋に知りたいんだ。だって俺達ネコ――」

「貴様ぁああああ!!」

 

「……何事だ!」

 

 バン、とドアが開きアクセルが現れた。

 

「無礼者! 見損なったぞ!」

「いや、マジで誤解だって! 話を聞いてくれ!」

 

 大声を浴びせ合う2人を見て、再度「何事だ」と呟く。

 

「なんですか、騒々しい……」

 

 遅れてキリエもやってきた。

 ティーカップとソーサーを持ちながら、距離をおきつつ眺めている。

 

「き、貴様らのボスが私に! 破廉恥な質問をしてきたのだ!」

「破廉恥じゃねえ、信じてくれ!」

 

「僕は……立場上、カラミアさんを支持したいですが……」

 

 アクセルは視線を泳がせた後、「キリエ、どうにかしてくれ」と唸った。

 

「いいですけど、高いですよ」とキリエは鼻で笑い、カップとソーサーをアクセルに押し付ける。

 

「カラミア、パシェさんに何を尋ねたのです?」

「それは……週に何回、風呂に入るかって……」

「はあ。そんなことですか」

 

 キリエはつかつかと歩き、カラミアの隣に並んだ。

 慣れた手付きで引き出しを探り、ハンドガンを取り出す。

 

「死んで詫びてください」

「なんでだよ!」

「ショットガンがいいですか?」

「嫌だよ! ……がっ!?」

 

 キリエはカラミアの後頭部を鷲掴みし、叩きつけるように机にぶつけた。

 

「私の後に続けて言ってください。『セクハラしてすみませんでした』……はい、どうぞ」

「いたたたたたた」

「聞こえませんねえ」

 

 容赦ない行動に呆気にとられていたアクセル。

 預かった茶器をテーブルの上に置き、ふたりに近づく。

 

「キリエ、やめろ。その状態では言えないだろう」

「言えますよ。我らがボス、カラミアなんですから」

「意味不明すぎる。いいからやめろ」

「なんです、セクハラ擁護派ですか? さすがムッツリスケベですね」

「……何か理由あっての質問に違いない。……ですよね、カラミアさん」

 

 キリエの手からようやく開放されたカラミア。額を擦りながら「当然だ」と呻く。

 

「ネコねーちゃんも俺と同じネコ科だろ? 風呂が苦手かどうか知りたかったんだ」

「……」

 

 カラミアの弁明に、パシェは口をへの字に曲げた。

 

「……知ってどうなるというんだ」

「どうにもならないけど。それでも知りたい時ってあるだろ?」

「ない。まるで子どもだな。……ちなみに、風呂は苦手ではない」

 

「はあ? ……はあ!?!??? 嘘だ、だって……その耳は飾りかよ!?」

「失礼な、飾りではない! 話は既に終わっている、失礼するぞ」

 

 パシェはフンと鼻を鳴らし、部屋を去っていった。

 彼女の背中を見送った後、カラミアは「マジかよ」と呟いた。

 

「ネコねーちゃんなら俺の気持ちわかってくれると思ったのに……」

「残念ですね。この街で、クサクサネコ科は貴方だけのようです」

「臭くねーよ。臭わない程度には入ってる」

「……ほう、自覚がないんですね」

「は? どういうことだ」

 

 キリエは目を細め、そっとカラミアから離れた。

 アクセルの背をトンと叩き、退室を促す。

 

「行きますよ、アクセル」

「……失礼します、カラミアさん」

 

 踏まれても蹴られてもいないものの。

 

「踏んだり蹴ったりってのは、このことだな……はーあ」

 

 手の甲でまだ痛む額に触れた後、鼻にそっと押し付ける。

 

「……臭わないよな。嗅覚には自信があるんだ、間違いない。

 だから風呂は……今日は入らなくていいはずだ、うん」

 

 自身を納得させながら、ため息をつく。

 

「風呂に入らなくていい体になりたい……。

 そうだ、次の流星群祭の願い事にしよう! 忘れないようにどっかメモっとかねえと……」

 

 塔の上の王が笑うかもしれないことを、ひたすら真剣に考えるネコ科だった。

 

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こんにちは、ゆーますです。

 

最近サブキャラクターの設定を見直す機会がありました。

キャラ対比ではふわっと覚えているのですが(アクセルは1番背が高いなど)

細かな数字はすっかり忘れているので、自分で決めたことながら面白かったです。

 

ハーメルンは179センチ(意外と大きいですね)

パシェは165センチ(パシェも大きい)

マンボイは182センチ(でか執事だ)

アルファーニ163センチ(女子だ)

ヘンゼル165センチ(意外と小さい)

 

ヘンゼルとスカーレット、5センチ差しかなかったようです。

オズの世界では、150センチ代と160センチ代の間に深い溝があるようですね!


2018年7月 限定SS『太陽と医者』ロビン・フッド カラミア
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2018年7月 限定SS『太陽と医者』ロビン・フッド カラミア

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ある日の診療所にて。

 今日はもう閉めようかとロビン・フッドが思った矢先、ひとりの男が現れた。

 

「――これはまた、派手にやらかしたね」

「すまない。先月世話になったばかりだってのに」

 

 やってきたのはカラミア。オズファミリーのボスだ。

 

 申し訳なさそうに肩をすくめる彼の顔には、細かな掻き傷。

 腕にも線を引いたような切り傷がいくつか見られる。

 

「別にいいよ、君達マフィアにとって怪我は生活の一部だろうし。

 飛び出た内臓をもとに戻して縫ってくれ、とか厄介なものでもなさそうだから」

 

 「まあ、格好悪いけど」と言葉尻に付け足し、カラミアを招き入れる。

 

 カラミアは顔をロビン・フッドに向けたまま椅子に座り、「格好悪いってなんだよ」と投げかけた。

 

「まあ、俺は先生みたいに色男ではないけどさ」

「男に言われても嬉しくないんだけど」

 

 ロビン・フッドはドアを閉じた後、薬棚へと向かった。

 扉を開けた手で、ひとつ、ふたつと小瓶を手に取りる。

 

「マフィアのボスにしては、大したことない傷だからさ」

「大したことあるっての。このままじゃ領民に恥ずかしいだろ」

「格好悪いって自覚、ちゃんとあるじゃないか」

 

 ロビン・フッドはカラミアの前の椅子に座り、顔を彼に近づけた。

 さらりと垂れる横髪を耳にかけながら、顔の傷をじっくり眺める。

 

「どうしたんだい。野良猫にでも引っかかれたとか?」

「へー、よくわかったな」

 

 からかうつもりで言ったのに。

 正解だと思わず、ロビン・フッドは「え」と声を漏らした。

 

「パン屋の屋根に子猫がいてさ。助けてやろうと頑張った結果がこれだ」

「マフィアのボスが、子猫を?」

「変か?」

「変だろう。部下に任せればいいのに」

「部下を待ってる間に、子猫がどうにかなったらどうすんだよ」

 

 どうにかって、具体的にどうなるというのだろう。

 聞いてみようとも思ったが、ロビン・フッドは疑問をそっと飲み込んだ。

 きっと、カラミアなりの真面目な答えが返ってくるだけだからだ。

 

 ……ふと、ロビン・フッドはハーメルンを思い浮かべた。

 彼ならもっと変なことを言うだろう。そして自分をひたすら困惑させ疲れさせる。

 迷惑で、煩くて、楽しい悪友。

 あんな不良とどうして仲良くなったのか、仲が良いのかわからないが。

 一緒にいると心が休まることは事実だ。

 

 そこまで考えたところで、ロビン・フッドは首を左右に小さく振った。

 ハーメルンのことを考えている場合ではない。今は治療のことを考えなければ。

 

「痛かったら言って」

「おう」

 

 カラミアが軽く息を吐いたと同時に、頬に薬を塗りつける。

 染みたらしく、カラミアはくっと目を細めた。

 

「いてっ」

「我慢して」

「い……痛っ」

「我慢我慢」

「いたたたたたたた」

「我慢して」

「痛いって言ってるだろ!?」

「我慢しろと言っているだろう」

 

 身を反らすカラミアの様子にため息をつきながら、彼の腕を掴むロビン・フッド。

 袖をめくり、傷を確認する。

 

「痛かったら言ってって言っただろー……」

「申告すれば止めるとは言ってないだろう?」

 

 ロビン・フッドの言葉に、カラミアは「確かに……」と口をへの字に曲げた。

 その後、「性格悪っ」と呟く。

 

「そちらの相談役に比べれば、マシだよ」

「そいつは違いない」

 

 そうこうしているうちに、治療は完了した。

 

「お疲れさま」とロビン・フッドが声をかければ、「まったくだ」とカラミアは頭を下げた。

 

「助かったよ。サンキュな、お医者様」

「どういたしまして。毎回こんな治療だったら嬉しいんだけど、無理なお願いなんだろうね」

「残念ながら、そうだな」

 

 カラミアは代金を机の上に置くと同時に立ち上がった。

 ひりひりと痛む頬を押さえながら、ドアへ向かう。

 

「んじゃな、先生。よい一日を」

「ありがとう。今日ももうすぐ終わるけどね」

 

 パタンとドアが閉じ、再び静寂が訪れる。

 

「今度こそ、営業終了だ」

 

 鍵を掛けようとした矢先――。

 

「ロビン君、遊びに来たぜ!」

 

 聞き慣れた声がドア越しに聞こえる。

 呆れと喜びの感情が、心の中で混ざる。

 

「ここは遊び場じゃないんだけど?」

 

 ロビン・フッドは一息ついた後、ドアを開けた。

 その先には、見慣れすぎた金髪の男の笑顔。

 診療所はその瞬間から、ダメな男達の酒場となった――。

 

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こんにちは、ゆーますです。

 

7月ももう終わりということで。

暑い日々が続いたため、

さっきまで「夏が終わりもう秋か~~~~」という気持ちでいっぱいだったのですが

8月が夏の本番でしたね…暑いのがとても苦手なので1ヶ月ほど気を失いたいです。

7月は油断して体調を崩してしまったので、8月はなんとか健康的に元気に前向きに全力で生きたい!

……と書くと、風邪フラグ立ちそうなのでほどほどに、ロー燃費でやっていこうと思います。

 

Poni-Pachetとしては今月、来月あたりにラジオを収録できればーいやいや、せねば!!やるぞ!!と考えております。

また収録時期が見えてきましたらお知らせいたします!

 

ではでは、よい夏を!!お迎えください

 

ゆーます


2018年6月 限定SS『小さな来訪者』小キリエ・カラミア
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2018年6月 限定SS『小さな来訪者』小キリエ・カラミア

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 ドタドタと、屋敷にカラミアの足音が響く。

 

 階段を駆け上がり、執務室へ一直線。

 ドアを勢いよく開け――。

 

「つっ!!!!」

 

 閉じたドアに背中を預ける。

 

「かれたー……。んだよ、あいつ。子どもとは思えねえ……」

 

『あいつ』とは小キリエのこと。

 数日前にやってきた(招いた覚えのない)客だ。

 

 外見や声色はキリエに似ていて、性格もほぼ一緒。

 だが明らかに違う点がある。

 

 やたらと行動力があるのだ。

 

「キリエもキリエでめちゃくちゃ面倒だったが、毎朝起してくることはなかったぞ。

 肩を揺するとかならまだしも、助走つけながら飛び乗ってきやがるし」

「だって、ひ弱ですからね」

「いやいや、んなの言い訳になるかよ。俺は寝起き悪くねえんだからもっとフツーに……?」

 

 口を閉じれば、しんと静まり返る。

 ……誰もいないはずなのに、反論があるとは。明らかにおかしい。

 

 嫌な予感がし、カラミアはドアにもられたまま内鍵をかける。

 カチリ、と鳴る施錠音。

 音が鳴るのとほぼ同じタイミングで、小キリエが執務机の後ろから現れた。

 

「お前、いつの間に!?」

「今来たところです」

 

 衣服を軽く叩きながら、小キリエはニコリと笑う。

 

(見間違いじゃない、さっき1階にいたはずだ。

 俺よりもはやく階段を登って、部屋に入ったのか? それとも窓から?)

 

 可能性をひねり出してみるが、これといった答えにたどり着けないカラミア。

 様子から察したらしく、小キリエは「次元の歪みからです」と言いながら、ソファに寝転んだ。

 

「歪み……」

「はい。現在ここの次元は非常に不安定で、あらゆる場所に歪みが生じています。見えませんか?」

「んなこと言われても……」

 

 執務室を注意深く見てみるが、変わったところは小キリエの存在意外なにもない。

 

「さっぱりわかんねえ」

「そうですか。こちらの次元の方々は、本当にスペックが低いですね」

「『こちらの次元』、なあ」

 

 小キリエがやってきて以来何度も聞かされている言葉だが、未だに理解できない。

 一度詳しい説明を求めたが、小難しい専門用語を数時間浴びせられた。

 それからというものの、脳が深く考えることを拒否している。

 

(いつまでこの状態が続くんだ……)

 

 オズ領民には天使だの可愛いだのチヤホヤされているようだが、冗談じゃない。

 カラミアにとっては、キリエ以上の悪夢だ。

 

「ここにいたら邪魔ですか?」

 

 きっぱり肯定したくなるが、相手(の見た目)は子どもだ。

 厳しい言葉を浴びせる気にならない。

 

「……静かにしてくれるなら、追い出しはしないが。どうしてお前は俺につきまとってくるんだ」

「監視を任されましたので」

 

(監視って……)

 

「キリエは俺のこと、そんなに信用してないのかよ」

「それは違います。信用してるからですよ。

 信用していない相手なんて、普通どうだっていいじゃないですか。

 ボスであるカラミアを信じ、かつ不便のないように、自分をわざわざ呼び寄せたに決まってます」

「小キリエ……」

「とか言っておけば、好感度あがりますよね。またひとつ、地位向上に貢献しちゃいました」

 

 危なかった。

 もう少しで小キリエの悪行を未来永劫許すところだった。

 

「キリエ以上に食えないヤツだ」

「儚い外見ごと武器にするハイスペック幼児、素晴らしいでしょう?」

 

 

 無視すればいいものを。

「自分で言うな」とツッコみ、小キリエのペースに自ら巻き込まれていくカラミアだった。

 

<終わり>

 

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Poni-Pachet ゆーますです。

 

GGR、シークレットレイディオ最新版配信いたしました。

お時間のある時に観て頂けますと幸いです。

 

GGRVol.11

https://youtu.be/4CvbIZNr8W0

シークレットレイディオ Vol.6

https://youtu.be/KHrsQoEJloQ

 

スケジュールが合わず上半期でのラジオ収録が2回となってしまいましたが

先日、音響会社さんと打ち合わせをし

下半期でGGR1回、シークレットレイディオ2回配信できるよう手配しました。

 

実施できるか否かは音響会社さんの交渉パワーとキャストのスケジュール次第なので

私は流星群祭で祈るしかできないのですが、

お知らせできることがありましたら随時共有しますので、のんびりお待ち頂ければ幸いです。

 

今日で2018年の半分が終わりますね!

 

今月の印象的な出来事といえばワールドカップ。

3節で、スウェーデンがTwitterのトレンド1位あがっててすごく嬉しかったです!!! Heja Sverige!

 

そして同日OZMAFIA!!が5周年を迎えました。めでたいことづくし!

日々慌ただしく、作文が書けてないのですが

落ち着きましたら個人プライベッターで垂れ流したいと思います。

 

晴れたり雨が降ったりと天候も慌ただしいですが

体調管理に気をつけて、夏をお過ごしください!

 

ゆーます

 

 

追伸

 

 

小キリエについてシークレットレイディオで話にあがってましたが、

興津さんが同日収録できないために爆誕した存在なので

小キリエの存在する次元=3次元ではないだろうか~~~?????と私は考えています!


2018年5月 限定SS『消え、往く者・下』<カラミア・キリエ>
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消え、往く者・下<カラミア・キリエ>

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「――死後については、私達の中では貴方が一番詳しいはずでしょうに」

 

 真夜中、キリエの経営するバーのカウンターにて。

 

 投げかけられた言葉の意図がわからずポカンとするカラミア。

 その隣には、様子を面白がるキリエ。

 

(俺が……?)

 

 なぜ。どうして。

 すぐに白旗をあげるのはよくないと思い、色々考えてみるものの。

 

(いやー、さっぱりわからん……)

 

 脳内にいる自分が、白旗を手にぷるぷる震えている図しか想像できない。

 

「それとも、随分前のことで忘れてしまったのでしょうか」

 

 そう言いながら、キリエはテーブルの上のグラスを手の甲で前へ押した。

 バーテンダーがブランデーが注がれたグラスと入れ替え、隣にチェイサーを置く。

 

「随分って、いつぐらい前?」

 

 キリエは答える代わりに「あと10秒」と言い、壁時計へ視線を向けた。

 

「10、9、8……ゼロ。はい、カラミアの負けです」

「勝負してねえし、ガキかよ」

「そうでしたっけ?」

 

 キリエは楽しそうに笑い、チェイサーに口をつけた。

 

「私はカカシ、アクセルは……元は人間とはいえ最終的にはブリキ人形。

 しかし貴方はライオン。限られた儚い命を持つ存在だったじゃないですか」

「ああ、なるほど……?」

 

 カラミアは納得しかけるも「いや、わからん」と首を横に振った。

 

「死ぬことはあるが、死んだことはないぞ」

「一度も?」

「あるわけないだろ。死後なんか知らねーよ」

「ではご家族は?

 塵から生まれたわけではないでしょうし、父ライオン母ライオンの死に立ち会ったことがあるはず」

「いいや。巣立ちした後は会ってない」

「そうですか、残念」

 

(わかりきった答えだろうに、わざわざ遠回りしやがって)

 

 キリエらしいと思いながら「そっちは」と尋ね返す。

 

「カカシ相手に生きてるとか死んでるとか聞くのはおかしいとはわかってるが。

 俺達と出会う前のカカシ時代、死んだこととか死にかけたこととかないのか?」

「多分、あったと思いますよ」

「多分?」

「ええ。私、あの頃は生死すら理解できないほど馬鹿でしたので」

「知ってる」

「畑が燃えた時も、綺麗だなと思って近づいたくらいです」

「それは知らねえな……」

「今初めて言いましたし」

 

 カラン、とグラスの中の氷が揺れる。

 

「素材が素材ですから、火がうつってたら死んでたかもしれませんね。ライオンと違って」

「いや、焼かれたら死ぬぞ。ライオンも」

「おやおや。百獣の王と威張り散らしてらっしゃるにしては貧弱ですね」

「散らしてねーよ、控えめに生きてたっつーの」

 

 言葉を投げ合いながら、それぞれ昔を振り返る。

 話の本筋に先に戻ってきたのは、意外にもキリエだった。

 

「死んだ者はどこへも行きませんよ。その場にずっと留まり続けます」

「その場?」

「ええ。例えるなら地層」

 

「アクセルの質問ということで、ミルフィーユでもいいですけど」と笑いながら、話を続ける。

 

「人生は時間の積み重ね。

 増えることのない思い出は色あせ、ぼやけ、やがて消える。

 死者は何もしません、できません。生きている者が勝手に離れていくのです。

 ですから私の意見はこうです。『死んだ者はそれぞれの思い出へ行く』」

「思い出……」

「ええ。アクセルが覚えている限りはアクセルの思い出の中へ。他の者も然り。

 そして全員が忘れてしまった時、本当の――」

「……キリエ?」

 

「どうした」と伺う声に、キリエがハッと我に返る。

 

「……なんでもありません。

 全員が忘れるというのはありえませんね、私も聞いてしまったのですから」

「みんなが忘れても、自分だけは忘れないって?」

「ええ……まあ、そのとおりです。私はみなさんと違って薄情ではありませんので」

「よく言うぜ」

 

 豪快に笑うカラミアを見ながら、キリエは前髪に片手をそっとあてた。

 

「酔っ払ったか?」

「いいえ、酔うはずないでしょう。……この程度、慣れてます」

 

 キリエは前髪から手を離すと、バーテンダーに向かって手を上げた。

 

「テキーラ10杯お願いします」

「はあ? 誰が飲むんだよ」

「カラミアが、です。相談役様のありがたい話を聞けたんです、造作もないでしょう?」

「あるぞ。酔いつぶれたらどうする」

「置いて帰るだけです」

 

 長い長い夜、が更に長くなってしまったことに後悔しつつ。

 律儀なカラミアは、テキーラを飲み干していくのだった。

 

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今年も夏が来てしまう……。

こんにちは、Poni-Pachetゆーますです。

 

普段から人間と接する機会が少ないのですが

今月は特に人と会う機会がありませんでした。

来月は何度か出張があるので、ちゃんと人間の言葉をリアルタイムで使えるか心配です。

文章だと考える余地があるからいいんですが、現実の会話って難易度高くないですか?

ADVゲームみたいに選択肢がほしいです。

 

さて。さて!

来月はオズマフィア❍周年なのですが

今年は……オズファミリーを全員揃えることができました……。

 

キリエが火星から帰ってくるよ! ということで

オズファミリーに聞きたいこと・伝えたいことがありましたら

https://customform.jp/form/input/9380/?key=4f33c142

こちらからご投稿ください。

 

それでは、よい夏をお迎えください!

 

Poni-Pachet

ゆーます


2018年4月 限定SS『消え、往く者2』<カラミア・アクセル+キリエ>
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消え、往く者・中<カラミア・アクセル+キリエ>

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「――人間は、死ねばどこへ行くんでしょう」

 

 執務室にて。

 報告を済ませ去ろうとしたアクセルが足を止め、ぽつりと呟いた。

 

 背中を向けられているため表情が見えない。

 声色からも感情は読み取れない。

 もしかしたら独り言かもしれないし、聞き間違いかも――。

 

(いや、その線はないだろうな)

 

 遅れて振り返ったアクセルの目は、まっすぐこちらへ向いている。

 

「死ねばどこへ行くか、わかりましたか」

 

 少し間を置いた後、「カラミアさん」と付け加えられる。

 ご指名ならば逃げられないと肩を竦めながら、記憶の片隅にある小さなドッグイヤーへ意識を向ける。

 

「そういや、前にそんなことを話してたか」

「覚えていたんですね」

「今の今まで忘れてたけどな」

 

 こちらへ戻ってくるアクセルを見つつ、テーブルの上のティーカップを手に取る。

 ほろ苦い冷めたコーヒーを口に含みながら、いつのことだったかを思い出そうとするものの。

 

「……最近じゃないよな? 数年前、いや……」

「それ以上前かと」

「思い出せたのが奇跡だな」

 

 空っぽになったカップをテーブルに置き、アクセルを観察する。

 

(テンションはいつもと変わらない。凹んでるわけでもないようだが……)

 

「夕方の葬儀で何か言われたか?」

 

 アクセルは「いいえ」と首を横に振った後、「後悔しただけです」と付け加えた。

 

「彼に生前してやれたことを悔やんだ後に、ふと思い。

 カラミアさんに相談したことを、思い出したんです」

「俺、なんつってたっけ?」

「特に何も」

「マジか」

 

「役立たずだな、俺」と苦笑する。

 

「結論は出ませんでした。そして今回も……」

「出ないだろうな、難しい話だからさ……あ、そうだ――」

「キリエには尋ねません」

 

 名案中の名案を遮るように却下され、思わず口を閉じる。

 

「馬鹿にされて終わりですので。……この話は聞かなかったことにしてください」

 

「では」と言い、アクセルは頭を下げる。

 少しして、俺だけを残す形でドアがゆっくりと閉じていった。

 

 

   ◆   ◆

 

「――ってことがあったんだよ」

「はあ」

 

 数時間後、キリエの経営するバーにて。

 何かしらコメントしてくれるだろうという俺の期待は、見事に裏切られた。

 キリエは片手に持ったロックグラスをゆっくり回すだけで、何も言ってくれない。

 

「はあって。リアクション低っ」

「店のグラス、新調したんです。美しいと思いません?」

「新調~?」

 

 促され、自分の目の前にあるウィスキーの入ったグラスを手に取る。

 同じようにくるくる回してみるものの――。

 

「サッパリわからない」

「これだから動物は困ります。芸術のげの字も理解できないなんて嘆かわしさの極みですね」

「はいはい、そうですか。……カカシにはわかるってのかよ」

 

「ええ。美しいという感情は、シンプルですから」

 

 小さく頷き、グラスをテーブルに置くキリエ。

 

「稲穂、青空、満天の星――。ひとりで見る分には、賛辞なんて不要ですし。

 どのような美辞麗句も、実物に比べれば塵芥以下です」

 

 キリエは顔の前で指を交差するように組み、目を閉じる。

 

「……しかし。愚問もいいところですよ、カラミア。

 死後については、私達の中では貴方が一番詳しいはずでしょうに」

「俺が?」

「ええ、貴方がとんでもない薄情者でない限りは」

 

 理解できないという俺の様子が面白いらしく、キリエは不敵に笑った――。

 

<3へ続きます>

 

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4月分のSSでした、ゆーますです。

 

4月は前半のオズコン対応が忙しく、てんやわんや総決算といった感じで。

それが過ぎれば楽だろう……と思っていたら、なんやかんや忙しいままゴールデンウィークを迎えてしまいました。

 

自分にとってのゴールデンウィーク及び大型連休は

「取引先から連絡が途絶える期間」で穏やかに過ごせる……と思いきや、

大抵連休明けに締切設定されるので、

単に普段よりメールの数が少ない期間という印象です。

 

 

が!!

 

世間ではいろいろとイベントが発生していて、そのニュースを眺めているだけでも面白いので

大型連休っていいな~と思います。

 

が!!!!!!

 

連休中に東京出張が入る場合は注意が必要です。

連休始めあたりは東京を離れる方がめちゃくちゃ多いので、

のらくらしていると、東京から帰れないという珍事が発生します。

 

宿泊場所は、最悪ネカフェという手段もありますし

みなさんもどこか遠くへ出かける際はまず移動手段の確保から始めましょう!!!

ネカフェに泊まる場合は、貴重品の管理は徹底しましょう!!

(以前、深夜のネカフェを利用した際、個室の扉が少しだけ開いていたことがあり

 閉じた後、ふと振り返るとまた開いていて、知らない男の人が扉の向こうに立ってました)

 

それでは、よい連休をお過ごしください!!

2018年3月 限定SS『消え、往く者1』<アクセル>
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消え、往く者<アクセル>
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静かな朝、鐘の音があたりに響く。
二度、三度。渋るように、ゆっくりと。

 

幸い、今日は晴れていた。
連日の雨にぬかるみがあるものの、傘をささなくていいのはありがたい。

 

(雨の日の葬儀は好きじゃない)

 

手が塞がって鬱陶しいのは勿論。
親しき者を葬る日――別れの日は、せめて空だけは晴れていてほしい。
曇っているのは、居合わせた者の胸の内だけで充分だ。

 

(いつかは慣れてしまうのだろうか)

 

葬儀への参加そのものは珍しくない。
部下を失ったのは一度や二度じゃない。
数えたことはないが、これまで何十、何百もの葬列に加わった。

 

死んだ理由は様々だ。

事故で死んだ者。
病気で死んだ者。
寿命が尽きた者。

 

星の数ほどある死の理由は、土葬というひとつの結末へ収束していく。

 

神父の祈り、手向けの言葉、花。
それはきっと、日課や仕事と変わらない。
決まったプロセスで淡々と進んでいく。

 

(……変わらないはずなのに)

 

辛いと思ってしまうのは、僕が未熟だからだろうか。
 

……『彼』の死を知らされるまで、『彼』のことを特別だと思っていなかっただろうに。

 

今日亡くなったのは、オズ領内にある商店の元オーナー。
豪快で大雑把でいい加減だが、上納金はきちんと収めてくれていた。
僕が店へ立ち寄った時はお菓子を用意してくれていた。
子ども扱いだと弱ったものだが、当然悪い気はしなかった。

 

引退後、悠々と暮らしていると聞いていたが。
蓋を開けてみればどうだ。
妻を早くに亡くした彼は、死後数日経ってから隣人に発見された。
毎日仲間に囲まれていたのに、誰に看取られることもなく、ひっそりと旅立った。

 

オズ領では、こういった場合、オズファミリーの幹部が喪主を務めることになっている。

 

今回は『たまたま』僕が選ばれた。
それだけだ。仕事のひとつでしかない。なのに――。

 

(身勝手なものだ)

 

心に溢れてくるのは、情けない後悔ばかり。

 

『もっと話しておけばよかった』
『もっと気にしていればよかった』

 

過去の自分に教えたところで、実行はしないだろうに。

 

(……本当、身勝手なものだ)

 

娼館オスカー・ワイルドの従業員達の手によって、棺桶に土がかけられていく。

 

もう帰っていいとドリアン・グレイに言われ、一礼をし踵を返す。

任務遂行。通常業務へ移行。

死に対する思いは時間の経過に伴い薄れていく。
そしてまた、葬儀の立会で思い出し、後悔するのだろう。

 

「人は死ねばどこへ行くのだろう」

 

昔、カラミアさんに尋ねたことがある。
カラミアさん自身もわからないらしく、ふたりで考えたものの、結論は出なかった。

 

(キリエなら……)

 

「知っているだろうか」という言葉を「尋ねたくない」という意地が覆いかぶさる。

馬鹿にするだけ馬鹿にし、放置されるのがオチだ。

支配者層である僕は、死がわからない。
支配者層でなくても、ブリキで出来ていた僕は死とは無縁だ。

だから想像さえできないが。

 

(いつか僕にも死が訪れるなら……)

 

今日のように、晴れた日がいいなと思った。

 

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暗い!!!

 

こんばんは、ゆーますです。

(もう4月ですが)4月のものと合わせての連作になります。

 

そう!!!もう4月!!!

 

今年はエイプリルフール企画がない分のんびりできる~と思いきや

そんなこともなく、バタバタと忙しいです。

そちらはポニパチェとは関係ないのですが、4月半ばくらいに情報だしができるかなと思います。

個人的にやりたいことも、ポニパチェとしてやりたいことも沢山あるので

毎日元気に生きなければな!!!と思いながら書きました。

 

前回、ドヤ顔(ドヤテキスト?)でラジオ収録!って言ってましたが

直前でスケジュールが変更になり、そちらも4月に入ってからになるようです。

なるはやでお届けできるよう頑張りたいです。2月分SSも……!

 

それでは、今年度もよろしくお願い致します!

2018年2月 限定SS『あり得ないこと』<シーザー・ソウ> ※2018/04/30 SS更新
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あり得ないこと<シーザー・ソウ>

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 ある日の朝、ウォールフガングのアジトにて。

 

(正直、嫌な予感はしてたけど……)

 

 まさか、よりによってこの人がなるとは思わなかったということもあり……というより、未だに信じられない自分がいて。

 無駄だとわかっているのに、尋ねずにはいられなくて。

 

「あのー、シーザーさん」

「……ゴホッ……なんだ……」

 

 ――ああ、やっぱり。

 これはダメだ、風邪ひいてる。しかもヤバそうなやつだ。

 

「……やっぱり、いいです。あはは……」

 

 目を逸らしながら、数歩下がる。

 

(せめて自分の身は自分で守らないと)

「待て……ゾウ゛」

「ぐぐっ」

 

(オレの名前、音が濁ってるし!)

 

 鼻をすする音をBGMに、オレは掴まれた首根っこに手を伸ばす。

 

「は、放してください」

「……ゴホッ」

 

 いつもなら「フン」と鼻を鳴らすところなのに。

 シーザーさんは体を揺らし、苦しそうに咳をした。

 

「シーザーさん、体調大丈夫ですか」

「……貴様には、俺がどう見える」

「大丈夫じゃなさそうです」

「………………」

 

 シーザーさんは少し黙った後「大丈夫だ」と言った。思いっきり咳き込みながら。

 

(ぜ、全然じゃないですか-!)

 

 見栄っ張りも格好つけも、ここまでくれば表彰モノだ。

 

「はあ……まさかシーザーさんが風邪をひくなんて、想像さえしたことなかったです」

「俺は強い゛がら゛な゛」

「はい。強い゛でずがら゛」

 

 ちょっと真似をしながら、うんうんと頷く。

 

「手っ取り早く治すならお医者さんに診てもらうのが一番ですけどー」

「殺すぞ」

「そ、そこは『嫌』って言うところですよ! ほんと物騒だなあ」

 

 風邪をひいても態度を変えないシーザーさんに感心しながら、うーんと首を捻る。

 

「栄養のあるものをしっかり食べて、たっぷり寝てもらうのが一番かもしれませんね」

「栄養か……ゴホッ……肉でいいだろう」

「今回こそ、ちゃーんと野菜を摂るべきです! 食べやすく、お肉と混ぜますから……」

「…………いいだろう」

 

(えっ)

 

 風邪をひいてるからか、いつもより素直……?

 

「俺が肉を食う。野菜は貴様が食え」

 

 ……なわけないか。ですよねー……。

 

「それじゃ全然意味ないです! とにかくほら、横になりましょう!」

 

 シーザーさんの背中へまわり、ぐいぐいとベッドのある方へ押していく。

 

「美味しいって思わず泣いちゃうような薬膳料理、作ってみせますから!」

「やく、ぜん……まあいい、早くしろ」

 

 コホッと咳をした後、シーザーさんはベッドに横たわった。

 くるりと向けられた背中はどこか弱々しくて、本当に病気なんだと思い知らされる。

 

(……風邪をひくなんて、まるで人間みたいだ)

 

 普段雨に打たれようが腹を出そうがピンピンしているし、大体彼は■■だ。

 確証はないものの、無縁だとばかり思っていたのに。

 

(不思議だけど……放置して様子を見守るわけにはいかないよね)

 

「さっさとしろ、ソウ」

 

 最も耳にする言葉――自分の名を呼ばれた瞬間、自然と背筋が伸びる。

 

 今のオレはウォールフガングのソウだ。だから『ソウ』がすべきことをしないと。

 

「すぐに作ります。待っててくださいね、シーザーさん!」

2018年1月 限定SS『雪と君と』キリエ
 

 ひとり執務室にいたキリエは顔をあげ、壁にかけられた時計を見た。

「――そろそろですね」

 テーブルの上の書類を片付け、ソファから立ち上がる。
 
 こつ、こつと響く足音。
 窓辺に近づき、曇った窓の一部をはめた手袋の甲で拭う。

 空も地も白く、その間でははらはらと雪が舞っている。

 

「今年はよく降りますね」

 

 雪が降る日は休み――であれば、どれほど嬉しいか。
 悲しいかな、そうはいかないのが相談役だ。

 被支配者層たる領民は、寒ければ凍えて死んでしまう。
 飢えれば、傷つけば――やはり死んでしまう。
 脆き者達である彼らを守らなくてはいけない義務の前では、我儘は通用しない。

 

(面倒で面倒で仕方ありませんけど……)

 

 彼女に与えられた運命の先で見つけた宿命だ。放棄するわけにはいかない。

 

「いやー、参った参った……」

 

 ドアの開く音。
 聞き慣れすぎた声に気づき、振り返れば、

 

「おやおや。残念なくらいに湿ってますね、カラミア」
「だろ? 本当イヤになるぜ」

 

 肩にタオルをかけたカラミアと目が合った。
 彼は持っていた外套をソファにかけ、タオルで髪をくしゃくしゃと拭く。

 

「家の中で見る分にはいいが。雪ってのは溶けるから困るぜ」
「溶けないほうが困るでしょう、交通の妨げになります」
「そいつはそうだ」

 

 外套の上にタオルを置き、キリエに近づく。

 

「こんなところに立ってどうした?」
「どうもなにも。貴方を待つついでに雪を眺めていただけです」

 

 胸元から紙切れを取り出し、「はい」と手渡す。

 

「除雪作業が必要な場所の一覧です」
「除雪なあ……これを渡すためだけに俺を呼んだのか?」
「はい」
「雪を取り除いてこいと?」
「幸い、立派な手と足が体についてるんです。可能でしょう?」

 

「可能だけども」と肩を落とす。

 

「帰ってきたばっかだってのに、すぐ行けってか」
「一杯くらいでしたらお茶を飲んでいいですよ。部下も好きなだけ連れていって構いません。
 他マフィアは低能無能の見本市ですが、こんな日に襲撃はしないでしょう」
「お前は? 来てくれないのかよ」

 

 キリエは返事の代わりに、目を細める。

 

「はー、そうですか。協力してくれたっていいのに」
「力仕事は私の専門ではありませんので。
 ほら。ライオンらしく、雪と戯れてきなさい」
「『らしく』ってなんだよ、どっちかっつーと苦手だっての。ったく、俺をなんだと思ってるんだ?」
「畜生以下」
「だろうな知ってました想像ついてましたー!」

 

 ため息をつきながら渡された紙をズボンのポケットに入れ、窓の外を見る。

 

「今回はいつまで降るんだろうなー」
「貴方が満足するまでじゃないですか?」
「なんでだよ、どっちかっつーと苦手だっつっただろ?
 こんな天気で喜ぶのは子どもくらいだ」
「子ども、ねえ……」

 

 ふと、懐かしい人を思い出す。

 

(そういえば、一緒に雪を見たことがない)

 

 思い返せば、彼女と過ごした時間は短かった。
 小麦色の大地で出会い、旅をして、目的を達成した。それでおしまい。続きはない。
 
 脳を手に入れてからの日々に比べれば、瞬きにも等しい。

 

(思い出は、長ければ長いほどいいというものではありませんが……)

 

 四季を辿るような旅であれば、ともに雪を見ることもあっただろうか。

 

(君はその時、どういう反応をするんだろう)

 

 子どもらしく、頬をリンゴのように赤らめて興奮するのだろうか。
 それとも。大人っぽく振る舞い、脳がないカカシが雪で遊んでいる姿を見守っているのだろうか。

 

(鮮明に思い出せるのに……。
 鮮明に思い出せるからこそ、もどかしい)

 

 夢想や空想の隙間からざらついた現実が溢れ、濁っていく。
 願う無意味さの、輪郭を際立たせる。

 

「――塔の上は、雪が積もるのかな」
「えっ」

 

 驚きのあまりに、『らしくない』声をあげてしまった。
 カラミアも引っかかったらしく「どうした」とキリエに尋ねる。

 

「……急に塔の話をするからです」
「ふうん。特に深い意味はないんだけどさ、ちょっと気になったんだ」

 

 ガラス越しに塔の方を指差すカラミア。

 

「塔の上、雲で見えないだろ? 雲の上にも雪はあると思うか?」

 

 明確な答えはわかっている。旅で手に入れた脳が教えてくれた。
 だけど……。

 

「あればいいと思います」
「どうして?」

 

 キリエは一呼吸置き、「別に」と首を左右に振る。

 

「ただそう思っただけです。さあ、雑談はこのくらいにして――」

 

 いってらっしゃい、とカラミアの背中をとんと叩く。

 

「お土産はブランデーでいいですよ」
「労働の他に土産まで要求すんのかよ。困った相談役様だぜ」
「お褒めの言葉、光栄です」
「褒めてねえ」

 

 心地よい応酬を経て、部屋は再びキリエだけのものとなった。

 

(手簡の整理、明日の予定の確認、それから――)

 

「気分転換に、少しだけ散歩するとしましょう」

 

 会えないとしても。
 話せないとしても。
 
 塔にいる君が、『僕』を見つけ出せるように。

 

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あけましておめでとうございます、ゆーますです。

本年もよろしくおねがいします。

 

年末年始、どう過ごされましたでしょうか。

私はついに、NOテレビ生活を貫きました。

 

めちゃくちゃ不自由!!! ということはなかったのですが、

結果、カウントダウンイベントが実生活で発生しなかったため

ぬるーーっと2018年を迎えたような。そんな感じです。

おみくじは中吉でした。

 

年末の宣言通り、今年はムービーの勉強を頑張ります。

今年は4回あるはずのラジオの編集も自分でやります。

成長をどうか見守ってやってくださいませ。

 

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