Ozmafia SS集 2016 - enty.jp



先ほど限定SSを購読されている方に配信した、お蔵入りボイスドラマ台本に絡めて。
年末の挨拶とともに、プラスアルファ補足させてください。

ボイスドラマの台本は、
絶対的なテンプレートはおそらくなく、書き方は人それぞれです。
(※独学のため知らないだけで、専門学校やシナリオ塾などではあるのかもしれません)

私の場合は、基本的には「セリフ」+「SE(動作説明」のみで、
文字ベースだとわからないかも、という部分だけカッコ書きで入れ
あとは役者さんにおまかせして、わからない部分・ちょっと違ったなという部分は現場で修正します。

以下にあげましたのは、『ぐだぐだレイディオ Vol.7』の冒頭のドラマ台本です。

こちらを見ながら聞くと、また違った面白さがあるかもしれません。

本年は誠にお世話になりました、来年もよろしくお願いたします。
心身健やかに、良いお年をお迎えください。

ゆーます
Poni-Pachet

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◆オープニングドラマ◆

BG・塔のある広場
BGM・明るい
SE・足音FI

【カラミア】 はー、さっむ……。風邪をひく前にさっさと帰らないと……

(かけあしFI・【ユーディ】見つけて)お。

【ユーディ】 ちーっす、ボス! お一人っすか?

【カラミア】 ああ。今日も元気そうだな、【ユーディ】。

【ユーディ】 へっへー。元気じゃない僕は僕じゃないんで!

病気には滅多にならないんすよ、イェイ!

【カラミア】 (笑い)そいつは羨ましい限りだ。……っと、そこを歩いてるのは……おーい。

【ベルシー】 ? ああ……誰かと思えば、オズファミリーの。

【カラミア】 おまえ、確かネコねーちゃんの部下だろ? 名前は……そう、【ベルシー】だ。

【ベルシー】 わ……覚えていてくださっているなんて光栄です。ええと、そちらは……。

【ユーディ】 【ユーディ】! アクセルさんの一番の部下、新進気鋭の輝けるソルジャーっす!

【カラミア】 新進気鋭って。新人じゃねえだろ?

【ユーディ】 へへっ。気持ちはいつでもフレッシュってことです!

【ベルシー】 ソルジャーですか。でしたら私と一緒ですね。

他領ということで、深く交流することはないと思いますけど。

よろしくお願いします、【ユーディ】さん。

【ユーディ】 うっす、よろしく! なあなあ【ベルシー】。

僕、どーしても聞きたいことあるんすけど、いいっすか?

【ベルシー】 聞きたいこと?

【ユーディ】 そう! ほら……長靴ファミリーって、女の子が多いじゃないですか。女の子!

【ベルシー】 は、はあ……。

【カラミア】 おまえ、よく見てるな……。

【ユーディ】 へへっ女の子に関しては、僕の情報網はパないっすから!

話は戻しますけど。女の子が多い職場って、どんな感じなんすか?

いい香りが漂ってたりするんですかね!!

【ベルシー】 いい香り……どうでしょう、気にしたことがありません。

【ユーディ】 気にしたことがない……! 女の子のいる空間で働いてることこそ

光栄だと思わないんすか!

【カラミア】 【ユーディ】……。

【ユーディ】 いやいやいやいや、今の職場が不満ってワケじゃないすよ!

断じてそんなことないっす! まあ女の子がいたらなーとは

ちょっとは少しは多少は思ってたりしますけど、ハハハ……。

【カラミア】 おまえ、ほんと(呆れ)……

楽園を想像してるみたいだが、現実は甘っちょろくないと思うぜ。

【ユーディ】 現実?

【カラミア】 あのネコねーちゃんに仕えてる戦闘部隊だろ?

腕っ節は勿論、どいつもこいつも気が強そうだ。

【ユーディ】 でもみんな美人っすよ!

【カラミア】 見た目で補えない要素もあるだろ……。【ベルシー】からもなんとか言ってやってくれ。

【ベルシー】 (突然振られたので慌てて)え、え……なんとか、と言われましても……。

【ベルシー】 ええと、そうですね……。一度見学にいらしてはどうでしょうか。

【カラミア】 見学?

【ベルシー】 はい。他マフィアの方ですので、城内へは入れないでしょうけど。

日曜であれば、領内を歩くことくらいはできます。

【ベルシー】 その際、私の姉を紹介します。私の姉もパシェ様にお仕えしています。

何か得られるものが――

【ユーディ】 ええええーーお姉さんを紹介してくれるんすか!

【ベルシー】 は!? は、はい……。

【ユーディ】 っていうことは……ゆくゆくは【ベルシー】君は僕の弟になるわけっすね!

【カラミア】 ならねーだろ。

【ユーディ】 『ゆくゆくは』、ですよ~。へへ……僕のことは兄さんって呼んでいいっすからね!

【ベルシー】 は、はあ……。

【カラミア】 いや、呼ばなくていいからな? ……【ユーディ】、落ち着けって。

【ユーディ】 僕はいつでも冷静っすよ。

【カラミア】 どこが……おまえのこと、たまにアクセルが愚痴ってるぜ?

【ユーディ】 それは、愛ゆえにですよ! アクセルさんの一番の部下なんで。

【カラミア】 ったく、おまえってやつは……で、週末長靴んトコに行くのか?

【ユーディ】 はい。チャンスは逃さずゲットしないと!

【ベルシー】 ゲットできますかね……姉は既婚ですし……。

【ユーディ】 なんか言いましたか?

【ベルシー】 いえ、なんでもありません。

それでは……日曜の正午、この塔の前でおちあいましょう。

【ユーディ】 うっす!

【カラミア】 くれぐれも、迷惑かけないようにな。

【ユーディ】 はいっす!

【カラミア】 しかし……ほんと【ベルシー】ってオンオフがしっかりしてるよな。

【ベルシー】 オンオフ?

【カラミア】 そうそう。ネコねーちゃんの前ではこう、はわわ、とか言って慌てだすのに。

【ベルシー】 それは……(はわわモードここから)ああっ!? 大変だ!

【カラミア】 ど、どうした

【ユーディ】 どうしたんすか?(【カラミア】と重ね ズレててOK)

【ベルシー】 パパパパシェ様に買い物を頼まれていたんでした! し、失礼しますーっ!!

SE かけあしFO

【ユーディ】 ……行っちゃいましたね。

【カラミア】 はは、あれでこそ【ベルシー】だ。さて、俺は屋敷に戻るとするか。おまえは?

【ユーディ】 見回りを続けるっす!

【カラミア】 見回り……ってまさかおまえ、勤務中だったのか?

【ユーディ】 えへへー実はそうなんです!

【カラミア】 緊張感のないヤツめ……それが【ユーディ】のいいところだけどな。街の平和のため、頑張ってくれ。

【ユーディ】 はいっす! 【終わり】



今回のSSはお蔵入りのデータから発掘してきました。

ボイスドラマCD用にと書いたものの

ボイスドラマCDの制作自体がいつの間にか流れてしまいまして

(中止というよりはvitaへの移植化など他作業で忙しくなり、

保留にした結果賞味期限が切れた、という感じです)

もし作るなら新たに台本を書き起こすだろうなと思い、こちらで発表します。

多分未公開だと思うのですが、

もし「見たことあるよ」という方がいらっしゃいましたらご一報ください!

本年は大変お世話になりました。

2017年がみなさまにとって素敵な年となりますように!

ゆーます

Poni-Pachet

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【ソウ】「(パーソナリティっぽく)ぐだぐだレイディオ、パート1!」

BGM:明るい

【ソウ】「はいっ。このコーナーでは、オレたちに寄せられたメッセージに、真剣にそれっぽくポジティブにぐだぐだ~っとお答えします!」
【ソウ】「Aグループのメンバーはオレ、ソウ! あと、オズファミリーからはあったまいいコンシリエーレのキリエ!」
【キリエ】「(やや不機嫌)どうも」
【ソウ】「キリエ元気ないねぇ。ま、いっか。それから、我らがウォールフガングのかっこいーリーダー、シーザーさん!」
【シーザー】「はぁ」
【ソウ】「シーザーさん、はぁ、だけじゃなくてちゃんと返事してください」
【シーザー】「なぜだ」
【ソウ】「聞いてる子にはこっちの姿が見えないんですよ。はぁ~、とか、ふぅ~、とかじゃ全然伝わりませんよ、字幕も出ないんですから。このコーナーではちゃんと喋ってください!」
【シーザー】「チッ……、今回だけだぞ」
【ソウ】「はいっ。以上3人でがんばっていきまーす、よろしくお願いしまーす!」
【ソウ】「ってことで、早速寄せられたメッセージを読むよ。まずは誰からにしよっか? ジャンケンで決める? それともアミダくじ?」
【キリエ】「この空間にいること自体私にとって無価値ですし死ぬほど面倒ですので、ソウからお願いします」
【ソウ】「いいの~? じゃ、オレからいくね!」

SE:紙を開く

【ソウ】「『ソウくんの手料理が食べてみたいです!』だって。えへへ、店に来てくれたらいつだって食べさせてあげるよ」
【ソウ】「このメッセージをくれた君は、どんな料理が好きなのかな? よかったら教えてね!」
【ソウ】「こんな感じでいいのかな~。トップバッターだから、期待にこたえられるか心配だな。ねえねえ2人とも、今のどうだった?」
【キリエ】「あざとい」
【シーザー】「(キリエと同時)あざとい」
【ソウ】「え~、そうかなぁ」
【キリエ】「そうやってカマトトぶるのって疲れません?」
【ソウ】「そんなこと言われても。オレはオレだし、わかんないよ」
【キリエ】「ふぅん。養殖ではなく、天然のぶりっ子なんですね。……ますますあざとい」
【ソウ】「もー、オレをいじめないでっ。じゃあ次はキリエの番!」
【キリエ】「いいですよ、こんなクソつまらない企画、さっさと終わらせましょう」

SE:紙をあける

【キリエ】「『キリエさんに愛していると言ってほしいです』、だそうです」
【ソウ】「わ、この人キリエのこと大好きなんだね!」
【キリエ】「口に出せば出すほど、価値が下がりそうな言葉ではありますが。コーナーの趣旨を思えば言わざるを得ませんね」
【キリエ】「いいでしょう、言ってあげます」
//エコー処理
【キリエ】「『貴方を愛しています』」
【ソウ】「えっ、今のなに!? 声がぼわーんてなった!」
【キリエ】「エコーという機械技術です。ご存じないですか?」
【ソウ】「うん、知らなかった。シーザーさんは?」
【シーザー】「……いいや」
【キリエ】「そうですか。ウォールフガングって、無法かつ無知の集団なんですね」
【シーザー】「なんだと!」
【ソウ】「シーザーさん、落ち着いて! ねえキリエ、そのエコーってやつ、オレにもできる?」
【キリエ】「ええ。あちらに控えている私の部下に合図を送れば、同じように処理してくれますよ」
【ソウ】「わーい、やった! 早速やってみようっと」
【ソウ】「じゃあ、いっきまーす。(咳)こほん、あーあー」

//エコー処理

【ソウ】「『君のこと、誰よりもたーっくさん愛してるよ!』」
【ソウ】「……わ、本当だ。ぼわーんってなった、へへー楽しいなぁ」
【キリエ】「スーパーミラクルアルティメットぶりっ子」
【シーザー】「同感だ」
【ソウ】「えー、なにそれひどーい」
【キリエ】「こんなにかわいい僕を見て構って注目してというオーラが大変痛々しいです、0点」
【ソウ】「ちぇっ、キリエったら手厳しいなあ」
【ソウ】「じゃあじゃあ、ついでにシーザーさんもどうぞ」
【シーザー】「……俺がどうした」
【ソウ】「シーザーさんも、せっかくだからエコーを体験してください。アジトじゃこんなことできませんよ?」
【シーザー】「馬鹿が。意味不明な技術に頼らずとも、近くの洞窟に入ればいくらでもできるだろう」
【キリエ】「……腰抜けクソオオカミ」
【シーザー】「貴様、それはどういう意味だ」
【キリエ】「未知の技術というものが恐ろしいゆえに適当な理由をつけて渋っているのでしょう? 貴方という人は、威勢がいいだけの腰抜け弱味噌オオカミですね。そうだ、これからチワワと名乗ったらどうです、同じイヌ科です支障はないでしょう?」
【ソウ】「支障あるって。チワワガングとか名乗りたくないよ、オレ……」
【ソウ】「ねえ、シーザーさん。思い切ってチャレンジしてみましょう。ね? ね?」
【シーザー】「断る。誰がするか」
【ソウ】「でもでも、やらないとキリエに腰抜けって言われ続けることになりますよ、いいんですか?」
【シーザー】「それは……」
【ソウ】「困りますよね? ささっとぱぱっとやっちゃいましょうよ。シーザーさんの好感度だってあがりますし、なにも悪いことじゃないですよ」
【シーザー】「俺の好感度……?」
【ソウ】「はい、シーザーさんに愛してるって言ってほしい人、たくさんいると思うんです」
【キリエ】「私は聞きたくありませんけど」
【ソウ】「キリエ、しーっ」
【ソウ】「ねえ、シーザーさん。1回だけでいいですから。ねっ?」
【シーザー】「~~。いいか、1度しか言わないからな」
【ソウ】「わーい! キリエの部下さん、シーザーさんの気が変わらないうちにスタンバイお願いしまーす!」
【キリエ】「馬鹿は舵取りが楽でいいですね」
【シーザー】「何か言ったか、クソカカシ」
【ソウ】「ななな、なにも言ってませんよ。ね、キリエ?」
【キリエ】「ええ、何も。気のせいじゃないですか?」
【シーザー】「……、ならいいが」
【ソウ】「ふー、なんとかごまかせたかな……はー、ヒヤヒヤした」
【シーザー】「おい、もう喋っていいのか」
【ソウ】「はいっ、よろしくお願いします!」

//エコー処理
【シーザー】「こほん(咳)……『愛しれう』――あっ」
【キリエ】「噛んだ」
【ソウ】「噛んだね……」
【シーザー】「も、もう1度だ。訂正させろ」
【キリエ】「駄目です。では次の――」
【シーザー】「い、言い間違えただろう、聞いていなかったのか!」
【キリエ】「ちゃんと聞いていましたよ。しかし『1度しか言わない』と宣言したじゃないですか」
【キリエ】「自発的行為にもかかわらずその言い草、大変むかつきますね。そこの窓をあけて身を乗り出してください、後ろからトンと軽やかに押してさしあげます」
【ソウ】「キリエ、シーザーさんを殺しちゃダメだよ。質問も終わってないのに……」
【キリエ】「それもそうですね。では、コーナーが終わり次第、突きおとしましょう」
【シーザー】「貴様……俺がおとなしくしていれば好き放題言いやがって」

SE:剣を抜く

【シーザー】「ねじ曲がり腐りきった人となりもその身も、この剣で叩ききってやる」
【ソウ】「わっ。シーザーさん、こんな所で剣を振り回しちゃダメです、危ないですよ」
【キリエ】「(ため息)これだから嫌なんです、住所不定無職は。失うものがない故にすぐ暴力に頼ろうとするのですから。はーあ、野蛮さに目まいがしそうです」

SE:銃を取り出す

【キリエ】「社会のために、貴方という存在をこの場できれいさっぱり抹消してさしあげます」
【ソウ】「えええキリエまで!?」
【ソウ】「ええっと、コーナーを続けたいところなんだけど、オレ2人を止めなくちゃいけなくて……シーザーさんへのメッセージを読めなくてほんっとーにゴメンね。それじゃ、また! ……もー2人とも、やめなってばぁ~」

<終わり>



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2016年11月 限定SS『冬』

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「――よし、こんなモンか」

 ある冬の日、雑貨屋にて。
 
 カラミアは財布を胸ポケットにしまうと、右腕をぐるっと回した。
 
「この時期は大変ですね」と店主に労われ、カラミアは
「まあな。つっても、この時期だけじゃねえけど」と笑ってみせた。

 カラミアの隣にはアクセル。
 両手いっぱいの紙袋を持ち、無表情で立っている――もとい、指示を待っている。

「俺の用事は終わったが、アクセルは? 何か買うか」
「僕は、別に……」
「そこにウマそうなチョコレートがあるぜ?」
「チョコレート……!」

 ごくり、と唾を飲み込み思案する。

(チョコレートの存在は店に入った瞬間察知した。
 カラミアさんの手前だ、気にしないふりをしていたものの、
 ダイレクトに言われると欲を……いや、ここは我慢だ。
 領民の前、しかも勤務中だ。我欲を出すなど――)

「アクセル、口を開けろ」
「は? むぐ……!」

 僅かな隙間へ、カラミアが何かを突っ込む。
 その正体は……。

(キャンディだ……)

 小さく丸く、甘ったるい、棒つきのキャンディ。

「両手が塞がってちゃ、食べれるのはこれくらいだろうからな」

 自身も棒つきキャンディを咥えながら、カラミアは店主に銅貨を支払った。

「おはねは(お金は)……」
「おまえの分も払ったよ。ほら、行くぜ」

 ポンとアクセルの背を叩き、ドアへと歩いていく。
 
 アクセルは振り返り店主に小さく頭を下げたあと、カラミアを追った。

 ◆    ◆

「さーーーーっむ!」

 カランコロンと、アクセルの背後でドアの鐘が鳴る。
 
 目前のカラミアは両手を口に当て、はあと息を吐いた。
 白い吐息が宙へ溶けて消えていく。

(季節の移り変わりは早いものだな)

 寒さは感じるものの、カラミアほどではない。
 両手に抱えた荷を落とさないよう気をつけながら、カラミアの側に寄る。

(もったいないが……)

 このままではまともに話せないため、キャンディを噛み砕く。

「屋敷へ戻りますか」
「そうだなー」

 辺りを見渡し、街に異常がないことを確認するカラミア。

「……いや、少しだけ寄り道するか」

 何かを見つけたらしく、とことこと歩き始める。

(寄り道……?)

 無言でその後に続くと、カラミアは露天の前で立ち止まった。
 売られているのは、イヤーマフラーを中心とした防寒具。
 
『寒い=防寒具を買おう』というシンプルな思考に、アクセルは納得した。

「なあ、これどう思う?」

 そう言い、カラミアは無邪気な笑顔を向けた。

(………………どうも、なにも……)

 カラミアがつけているのは、猫耳のカチューシャ。
 防寒できるはずがない、ただ可愛さが上がるだけのアイテムだ。

 しかも、相手は大の男だ。

(可愛くは、ない……)

 相手がキリエなら――キリエはこんなことはしないだろうが――ぴしゃりと否定するところだが。

(なんと言えばいいんだ…………………………困った)

 相手は上司であり、カラミアだ。
 正解がわからない。

(世辞でも『可愛い』と……いや、カラミアさんはそんなことを言って喜ぶタイプではないだろう。
 喜ばれたとしたら、それはそれで困る。
 そんなカラミアさんは……………………イヤだ)

 うんうん悩むアクセルをよそに、カラミアは「色違いもあるのか」と手にとってはつけていく。

(カラミアさん……実はこういった趣味があるのか………………………………?)

 遠い昔ともに旅をし、同じ屋根の下に暮らしている仲だというのに。

 知らなかった&知りたくなかった。
 アクセルの中のカラミア像が、ドンガラガッシャンと音を立てて崩れていく。

(いや……ライオンはネコ科だ。
 本能によるものかもしれない……気持ち悪いが……)

 だらだらと変な汗がでる。
 コメントは、相変わらず浮かばない。
 100%失言する未来しか視えない。ツークツワンクだ。

「――迷うなー。どれもお嬢さんに似合うよなー」
「……………………は?」

「お嬢さん……?」と呟くアクセルに、カラミアが「そうだ」と頷いた。

「年の瀬に街で仮装パーティするだろ? その時用にってプレゼントしようと思ってさ」
「あーーーーーーーーーー……」

 納得。理解。安堵。安心。平穏。

 心の中で留めておかったものを。
 アクセルの口から「カラミアさんが着けるのかと思った」と素直な言葉がサラサラと溢れる。

「はあ? 誰が着けるかよ」

 カラミアは店主に金を払った後、アクセルの背後に回った。
 彼が反応するよりも早く、黒髪にカチューシャを差し入れる。

「あっ」
「変なことを言った罰として、こうだ!」
「カ、カラミアさん!?」
「黒髪に黒猫の耳、すっげー似合うな」

 その笑みは嘲りではなく、本心で。
 本心だからこそ、アクセルは困ってしまう。

(両手が塞がれては、取ることができない……!)

「さ、帰ろうぜ。お嬢さん達が待ってる」
「……………………了解」

 空は赤く、刻一刻と夜が近づいている。
 誰も自分の頭部の異変に気づきませんようにと願いながら、
 アクセルは赤いレンガ道を歩くのだった――。
 
 <終わり>



ヘンゼル「トリック・オア・トリート~!」
グレーテル「お菓子をくれないと……あんたをぐつぐつ煮たった鍋に放り込んで蓋をして30分放置するわよ……」
スカーレット「グレーテル、物騒なことを言うんじゃない」
ヘンゼル「んじゃ、『爆弾投げるぜ!』っていうのは?」
スカーレット「それも駄目だ」
グレーテル「『悪戯をする』なんて脅しにならないじゃない。具体的に何をするか言うべきよ……」
ヘンゼル「そーだぜそーだぜ! スカーレットは何するんだよ」
スカーレット「何って、僕は……」
ヘンゼル「僕はー?」
スカーレット「……くすぐる」
グレーテル「……」
ヘンゼル「かーらーのー?」
スカーレット「そ、それだけだ。そもそも、僕は嫌がらせは好きじゃない」
スカーレット「こうして仮装をすること自体、抵抗があるというのに――」
グレーテル「……あ。ハーメルンさん、見つけた……」
ヘンゼル「っしゃあ! ハーメルンさん!! 爆弾オアトリートー!」
スカーレット「え、ちょっと……ふたりとも、待ってくれ!」



2016年9月 限定SS『幸福な王子』 

 ひとは、僕のことを単純だと言う。
 僕も、そうなんだろうなって思ってる。
 誰かの幸せが、僕の幸せ。
 困っている人を助けることが、僕の喜び。
 嬉しそうな顔をみると、僕も嬉しくなる。

 物が必要だという人に、物をすべて差し出して。
 金が必要だという人に、財を残らず差し出して。
 僕にあげられるものはこの体しか残ってないけれど。
 必要だと言ってくれている人がいるから、僕はここに繋ぎ止められている。

 娼館『オスカー・ワイルド』。
 金銭を支払い、まわりくどく言うなら……従業員の時間を買う場所。
 単刀直入に言うなら、体を買う場所。
 街の住人は誰でも利用できる。
 さすがに、未成年はくることはないけど。

「今日はだれが来るのかなぁ」

 ベッドに寝転がり、部屋に入る前に渡された紙を広げる。
 書かれている顧客内容は、至ってシンプル。
 時間、性別、名前。匿名の場合もある。
 あと、稀にフェチズムも書いてあることがある。
 書いてなくても、特殊なプレイを希望されることもある。
 
 どんな内容でも喜んで応えるけど、個人的に好きなのは、いじめてもらうこと。
 首を絞められ四肢の自由を奪われて、生存権を相手に委ねる。
 意識を手放しそうになるギリギリのところで手を差しのべられて。
 加虐に悦ぶ瞳に見下され、難しいことを考えられないぐらい蹂躙され。
 尽くす幸せに溺れていく。

 いじめられることが好きな人には、僕がされたいことを体に刻みつける。
 精神を崖まで追いつめて、突き落として、隙間を残さず真綿で詰める。
 絶望の中に糸を1本だけ垂らし、ゆっくりとたぐり寄せて。
 希望の羽根でつつんであげる。

 もちろん、ノーマルも得意。
 その時だけは、恋人になりきるんだ。
 あふれる愛しさに、体を芯から熱くさせられて。
 理性という皮を衣服と一緒に脱ぎ捨てて、本能に身を委ねる。
 緩やかな波、激しい波に内から外から攻められて。
 快楽のゆりかごの中で溶けるように交わる。

「……この名前、見たことのないなぁ」

 僕は難しいことは考えない主義。
 考えないというか、考えられない。
 僕はただ、今とちょっと先の未来を楽しく生きたいだけ。
 難しい顔をしなくちゃいけないことは、僕じゃないほかの誰かの役目だと思ってる。
 それが、単純だと言われる由縁。

(考えないから、忘れっぽくなっちゃったのかなぁ)

 前髪をいじりながら、紙に書かれている名前を口に出してみる。
 喘ぐとき、愛をささやくときに言ったかもしれない。
 でもそれは、名前がありきたりだからかもしれない。
 ファーストネームが一緒のひとは、少なくない。

「まあ、いっか」

 考えることをやめて、ベッドに寝転がった。
 最初のお客さんがくるまで、少し時間がある。
 なにをして待っていようかと思いながら、窓から外の景色を眺めた。

「……あ、マンボイちゃんだ」

 娼館の使用人のマンボイちゃん。
 動かないと死んじゃうのかなって思うぐらい、いつも忙しそうにしている。

「フーカちゃんも一緒なんだ」

 2人向かい合って笑ってる。
 会話の内容はわからないけど、楽しい内容に違いない。

「いいなぁ。僕もお話ししたい」

 僕が彼女に近づくと、マンボイちゃんは嫌そうな顔をする。
 フーカちゃんには、娼館のことを知られたくないんだって。
 理由はわからない。
 この街の住人ならよくて、彼女はなぜだめなのか。
 彼女がなぜ、特別なのか。
 わからないから、こう思うことにした。
 ――マンボイちゃんは、フーカちゃんが好きなんだって。

「マンボイちゃんでも、人を好きになることがあるんだねぇ」

 マンボイちゃんは、気さくにみえて、しっかり壁を作るタイプだから。
 ヘンテコな名前も、娼館で働く時だけに使ってる偽名。
 本名で呼ぶと、びっくりするぐらい不機嫌になる。

「告白、できるのかなぁ」

 マンボイちゃんは心の壁を壊すのに時間がかかるに違いない。
 その間に、誰かにフーカちゃんを取られないといいんだけど。

(僕ならどうするかなぁ……)

 気持ちを伝えて、柔らかそうな唇を奪おう。
 驚いた顔が紅潮するのを見てから、耳元でもう1度囁く。
 返事はなかなか口にしてくれないだろうから、身体にたずねる。
 耳、首と舌を這わせて、感情をたぐり寄せて。
 変わらない感情なんてない。
 僕を好きだと言うまで、離さない。

「……こんなことを妄想してたって知ったら、怒るだろうなぁ」

 マンボイちゃんの顔を想像しながら、ふわふわの枕に顔を埋めて笑う。
 すると、コンコンとノックする音が聞こえた。

「アルファーニ、お客様のご来店です」
「うん、どうぞ」

 従業員に連れられてやってきたのはフーカちゃんに似た背丈の、女の子。
 顔をまっかにして恥ずかしそうにうつむいている。

(娼館にくるの、勇気が要ったんだろうなぁ)

 緊張をほぐすために柔らかな微笑みを浮かべて、女の子の手を取る。

「ご指名ありがとう、お姫様」

 頬を両手でつつんで、額にキスをする。
 とろけるような表情を見てから、唇にキスをして。
 ベッドへ誘い、僕の仕事がはじまる。

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今回はかきおろしではなく、
vita版の初回限定版冊子に収録できなかったアルファーニのSSを。

vita版では『娼館』という表現を避けた方がいいといった判断で、
オスカー・ワイルドは高級サロンという呼称に変わり、
表現もふわーーーっとしたものになり、
その流れで、このSSはお蔵入りとなっていました。

ゆるふわアルファーニ視点、楽しんで頂けますと幸いです。

ゆーます



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2016年8月 限定SS『キミの名は』
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 日曜、塔のある広場にて。

「――だから、その呼び方はやめてくれないか」

 ぶらぶらと歩いてきたカラミアの耳に、不満を含んだ声が届く。

(あそこにいるのは……)

 声の主はグリムファミリーの幹部であるスカーレット。
 誰と話しているのだろうと不思議に思いつつ、彼の方へ歩いていく。

「やめろって言われても、困るよー」

 のんびりとした、朗らかな声色。
 どうやら、スカーレットの話し相手はソウのようだ。

(んで、ふたりで何の話してんだ?)

 好奇心を更にくすぐられ、
 カラミアは馬車風の店へと近づいた。

「よう、何やってんだ」

 カラミアの姿に最初に気づいたのはスカーレット。
 遅れてソウも「あ、カラカラだ」と反応する。

「またそうやって……」
「あー、ゴメン。こうでもしないと覚えられないんだよ」
「どうした、何を揉めてんだ?」

 カラミアの問いに、スカーレットは「揉めてはいない」と軽く首を左右に振った。

「ソウに、僕のことをスカスカと呼ぶのをやめてほしいと頼んでいるだけだ」
「やめろって言われても。
 オレ、こうでもしないと人の名前を覚えられないんだって。
 スカスカはスカスカ、カラカラはカラカラ! 可愛くていいと思わない?」

 開き直るように笑むソウに、「カラカラなあ」とつられて笑うカラミア。
 
 今まで気にしたことはなかったが。
 よくよく考えてみれば、『カラカラ』という呼ばれ方も変だ。

「オレ、人のフルネームを覚えるのがほんっと苦手なんだよね。
 教えられても、すぐに忘れちゃうんだ」
「でもキリエのことはキリエって呼ぶだろ?」
「うん。3文字はギリギリ大丈夫」
「ギリギリって……」
「覚えられなくて苦労したけど、なんとか覚えたよ。それに、キリエはキリキリって呼ぶと怒るし」
「呼んだことあるのかよ」
「もちろん! 二度と呼ばないでください、って睨まれちゃった」

 カラミアらのやりとりを眺めていたスカーレットが、小さく口を開く。

「……シーザーは?」
「ん?」
「『シーザー』は3文字を超えている。
 だけど変な呼び方はしないだろう。
 ……本当に、覚えらないのか疑わしい」

「疑わしいって。オレのことを信じてくれないの? ひどいなあ」

 ひどいと言いつつ、ソウはニコニコと笑っている。

「オレがシーザーさんの名前をちゃんと覚えてられるのは、
 シーザーさんがオレにとって特別で、大切だからだと思う。
 大切なことは、どんなことがあっても何があっても忘れないものでしょ?」

「ああ……そうだな」

 心当たりがあるらしく、スカーレットは静かに頷いた。

「だから、ゴメン。
 これからもスカスカって呼ばせて! ね?」

 申し訳無さそうに肩を竦められ、スカーレットは「仕方ないな」と溜息をついた。

「覚えられないというのなら、何も言えないな。……不満だけど」
「あはは。お詫びに何かスイーツを出してあげるから、許して?」

 馬車型の屋台へ向かおうとするソウへ、カラミアが「そういえば」と言葉を投げかける。

「お嬢さんの名前は?
 どう出会ったかは知らないが、最初の頃から普通に呼んでるだろ」
「あの子は特別可愛いから、すぐに覚えちゃった」

 ソウはウィンクをし、屋台の中へ。
 悩むことなく紡がれた彼の返答に、カラミアが「へえ」と感心する。

「……あいつ、やり手だよな」
「やり手って?」
「可愛い顔してても、男なんだなーって思っただけだ。じゃあな、『スカスカ』?」

 スカーレット達の話に満足したカラミアも、踵を返し去っていく。

「あ! ……まったく、カラミアさんまで……」

「僕はスカーレットだ」という呟きを背に、カラミアはくすりと笑った。

<END>



【第一目標達成記念SS】『雨あがり』(カラミア・キリエ)
 流星群祭の翌日。

 晴天の下、塔のある広場にて。
 俺は流星群祭の後片付けをしていた。
 
 昨晩の雨の影響で湿度は高く、蒸し暑い。
 額の汗を拭いつつ、塔に背を預ける。

(中止した行事の後片付けってのは、味気ないな)

 流星群祭は、1年で1番大きな祭りだ。
 その日のために何週間前から計画を立て、準備をしてきた。

 ……それなのに。
 『降雨』という理由だけで、文字通り流れてしまった。
 出来るはずだった思い出が、ここには欠片もない。
 
「この天気が、昨日だったらよかったのに」

 今晩はきっと、満点の星空となるだろう。
 だが、流星群は見ることができない。
 
 たった1日のズレなのに、計画が狂ってしまった。
 実に勿体ない。

「カラミア、何をサボってるんです」
「キリエ」

 キリエは俺の側へやってくると、同じように塔にもたれ掛かった。
 被っている帽子を右手に取り、顔の前で仰いでいる。

「お前もサボるのかよ」
「私はいいんです、相談役ですから」
「それ、理由になってませんけどー」

 脇腹を肘でつつくと、「やめてください」と叩くように払われた。

「領民の損益に対する補償はどうしますか。天候理由での中止ですから『ナシ』でも問題ありませんが」
「当然、補償すべきだ。めげずに、来年も頑張って欲しいからな」
「承りました」

 帽子を深くかぶり直し、体を起こす。
 
「では私は、『数字』と遊んできます」
「おう、任せたぜ」

 ジャケットのリボンをひらひらと揺らし、屋敷のある方へ歩いて行くキリエ。
 昨晩とは異なるその様子に、ホッとしてしまう。

(やっぱキリエは、ああでないとな)

「……これで、もっと優しくなってくれりゃ最高なのに」

 優しいキリエなんてキリエじゃないなと笑いながら、再び後片付けに加わった。
 
 流星群祭まで、あと364日。
 
 どうか次こそ、晴れますように。



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2016年7月 限定SS『流星群祭』
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――オズの屋敷、執務室。

「珍しいことがあるもんだ」

 俺は窓から外を眺め、短くため息をついた。

 ガラス越しに見える景色は暗く、しとしとと雨が降っている。
 
 今晩は流星群祭だというのに。
 
 この雨のせいで、全てが白紙になってしまった。

 流星群が見られなれば意味がなく、
 『今日がダメだったから明日』というわけにはいかない。

 だから何をどうしても、今年の流星群祭は中止だ。

「――失礼します」

 ノックの音と共に、アクセルが部屋へ入ってきた。

 その表情は普段通り、涼しげだ。

(アクセルは問題ないんだよな)

 そう思いながら、「キリエは」と尋ねる。

 アクセルは返事をする前に、首を左右に振った。

「少なくとも、この屋敷にはいません」
「そうか。困った相談役様だ」

「サンキュ」と言い、アクセルは頭を下げ踵を返す。

 ――が、ドアノブに手をかけながら振り返り、俺を見た。

「………………放っておいてもいいのでは」
「キリエを?」
「はい。きっとどこか……バーなどで好き勝手にやっているかと」

(だといいんだんがな……)

「念のためってヤツだ」と笑いながら、外套を手に取る。

「こういう日こそ、事件が起こるかもしれない。
 相談役にふらふらされりゃ、困るからな。迎えに行ってくる」

 それらしい理由をつらつらと述べると、
 アクセルは「わかりました」と頷いた。

 あまりにもすんなりと納得されたので「過保護か?」と尋ねてみると、
 アクセルは表情を変えず「ボスらしくていいかと」と答え、ドアを開けた。

 立ち去らず、こちらを見ている。
 俺のためにドアを開けてくれたのだろう。律儀な男だ。

「同行しましょうか」
「サンキュ。だが、大丈夫だ。休める時は休んどけ、アクセル」

 アクセルは少し黙った後、「お気をつけて」と頷いた。

「確かキッチンに、領民がくれたケーキがあったはずだ。食べていいぞ」
「そ、それは……」
「もう食べたのかよ」

 アクセルは目を逸らしながら「すみません」と声を漏らした。

「スイーツ狂め」

 その様子に笑いながら、歩き始める。

「んじゃな、留守は任せた」
「はい、お気をつけて」

   ◆   ◆

「……本当、珍しい」

 傘を2本持ち、屋敷の扉をくぐる。

 そっと手を伸ばせば、雨粒がグローブを濡らした。

「流星群祭の日は、あまり降らないってのにな」

 それでも、必ずではない。

 今までだって何度か、雨天中止となった年があった。

 だが、それも『数度』。
 片手で数えられる程度で、永年を生きる俺達にとっても稀なことだ。

「だからこそ、『キツい』んだろうな……」

   ◆   ◆

 中止となったものの、
 大通りには流星群祭用の小道具などが多く残っていた。
 
(当然だ、今日のためにずっと準備してきたんだから)

 「勿体ないな」と思いながら、塔のある広場へ。

(ああ……やっぱり、いた)

 塔の真下。
 
 何もないその場所に、男が一人うずくまっていた。
 
 ……ただ座っているだけかもしれないが。
 俺には彼が、うずくまっているように見えた。

(なんにせよ、異様な光景だ……)

 誰もいない場所で、ひとりきり。傘もさず、何もせず……。

「こんなところにいたのかよ、キリエ」

 明るい声を意識し話しかけたものの、キリエは反応しない。

 地面を見たまま、銅像のように固まっている。

「せめて雨宿りしろよ。風邪引いたらどうする」

 正面に立って傘を傾け、入れてやる。

「……馬鹿ではないので、引きませんよ」

 キリエは俺を睨むように見上げた。

「邪魔です、退いてください。空が見えないじゃないですか」
「雨なんだ、流星群は見えないだろ」
「……見えなくても、雲の先にはあるんです」
「雲の先、ねえ」

 キリエの望み通り退いてやり、彼の隣に同じように座る。
 外套が汚れるかと気になったが、まあいい。
 汚れたら洗えばいい。それだけだ。

「流星群祭、残念だったな」

 キリエは返事をする代わりに、沈黙で肯定を示した。

 祭り自体は大したことない。
 屋台を出し、催し物をし、騒ぐだけだ。だが――。

(星が見られなきゃ、意味ないんだよな……)

「……この塔に登れりゃ、見えるんだろうけどな」
「登り方なんてありませんよ」

 一秒の隙間もないツッコミに「ああ。まあ、そうなんだが」と苦笑いをしつつ、
「登れりゃいいのになって思っただけだ」と続ける。

「塔の上に住んでるらしい『王様』ってのは今頃、流星群を独り占めか。羨ましいもんだ」
「……独り占めできたとして」
「ん?」
「『王様』は、幸せでしょうか」
「幸せって……」

 何気なしに言ったことに食いつかれるとは思わず、つい黙ってしまう。

「……幸せかどうかはわからないが。幸せだといいよな」
「どうして?」
「どうしても何も。
 相手は誰であれ、不幸せよりは幸せなほうがいいだろ。
 この街だってそう。ライバルだなんだって、いがみあってるが。
 誰も傷つかず、死なない……平和であることが一番いい」
「……」

 黙るキリエの横顔からは、感情は読み取れない。
 彼の頬を雨粒が伝い落ちるのを見ながら、「答えになってないか?」と尋ねる。

「カラミアは本当に……」

 キリエは髪をかきあげながら、「馬鹿ですね」と言い切った。
 
「なっ」
「そして甘っちょろい。
 腐ってもマフィアのボスなんです、もっと野心を持ってください」

 そう言い、俺が差していた傘を奪う。

「ちょ……そっちは俺だ。お前のは――」
「用途は一緒なんです、どちらでもいいでしょう」

 キリエはくすくすと笑いながら立ち上がった。

「よくねーよ」と文句を言いつつ、キリエ用にと持ってきた傘を広げる。

「私を迎えにきたんでしょう?
 もののついでということで、バーへ行きませんか」
「別にいいが……その姿で行く気か?」
「私が経営している店ですよ。着替えくらい置いています。
 今晩限定のカクテルがあるんです。付き合ってください」
「限定か。そいつは楽しみだ」
「私も。他人の金で飲む酒は格別ですからね」
「俺に奢らせる気かよ……」
「当然です。出してくれますよね、ボス?」

 キリエは傘を傾け、俺をじっと見た。

 その表情は飄々としていて小憎たらしく――『普段の彼らしさ』に内心ほっとする。

「しかたねーなー」
「ふふ、ありがとうございます」

 キリエは小さく礼をすると、歩き始めた。
 
 雨音に溶ける足音を聞きながら、口を開く。

「来年は晴れるといいな」
「晴れますよ」

「晴れなければいけません。
 ……私は強欲なんです。独り占めなんて、させません」
 
 そして振り返り――、
 ……水たまりの水を蹴り、俺に浴びせた。
 
「うわっ!?」
「ぼけーっとしないでください。ほら、行きますよ」

 意地悪く笑い、先に夜闇へ溶けていくキリエ。
 
 その態度に肩を竦めつつ、空を見上げる。

(願い事なんて、滅多にしないが……)

 『来年こそ晴れますように』と、雲の先にあるはずの星々へ祈った。

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