Ozmafia SS集 2017 - enty.jp

2017年12月 限定SS『幸福な王子』マンボイ・アルファーニ
「アル、まだ眠ってるんですか?」

 

 ある昼下がり、アルファーニの私室にて。
 訝しげに入ってきたマンボイは部屋を見渡す。

 

「アル……?」

 

 ベッドはもぬけの殻。床には散乱した衣服と装飾具。
 クローゼットの中やベッドの下を見てみたが、部屋主の姿はなく。

 

(何度ノックしても返事がないはずだ)

 

 マンボイはため息をつきながら、床に散らばっている物を拾い始める。

 

(どれもこれも安くはないのに)

 

 今手に取った髪留めだってそう。
 マンボイの一ヶ月分の食費ほどの価値があるそれを、アルファーニは飴玉の包み紙のように扱う。

 

(節制しろとは言わないが……)

 

 もう少し、一般常識を身につけてほしい。
 具体的に挙げるならば、物に執着してほしい。

 アルファーニは人に愛されること、人に求められることを至福としている。
 その対象は万人だ。特定の相手ではない。
 
(もし、誰かを愛することができたら……)

 

 その誰かのために、自身を見直すだろう。
 その誰かのために、変わろうとするはず。

 

「なんて……まるで他人事だ」

 

 衣服をクローゼットに並べ、装飾具は化粧台の引き出しへ。
 少し開いた窓を閉めるべく、差し込む光へ歩を進める。
 
(物に執着しないのはオレも同じ)

 

 愛の言葉を交わした相手を次の瞬間殺すことも、殺した後に平然としてられるのも。
 人にも物にも執着できない証だと思う。
 少なくとも、その心の機能は『マンボイ』には求められていない。

 

(アルが変われないように、オレだって変われないだろう)

 

 幸福な王子に尽くしたツバメは、春風に包まれることなく死んでいく。
 死ぬことすら許されないマンボイは、ほの暗い永遠をただひたすら飛ぶしかない。

 

(陽の光はこんなにも温かいのに)

 

 自由を失った彼には、掴むことができない。

 

「マンボイちゃんマンボイちゃん、見っけ!」
「アル……うわっ」

 

 振り返ったマンボイの双眸にアルファーニが映り込む。
 いきなりのことで対処できず、押されたマンボイは後頭部を窓にぶつけた。

 

「いたっ」
「わ、大丈夫!? 怪我した? 血出てる? ロビンちゃんのところに行く?」
「いえ……大丈夫です、お気になさらず」
「そう?」

 

 アルファーニは「わかった!」と元気よく返事し、ニコニコと笑った。

 

「この時間に部屋にいないなんて珍しいですね。館内を散歩していたのですか?」

 

 後頭部を擦りながら尋ねるマンボイを見上げ、アルファーニは「ううん」と首を左右に振る。

 

「キリエちゃんとお話してたんだー」
「キリエ様と?」
「うん。この間殺された人について聞きたいって!」
「ああ……」

 

 先日、娼館内で発生した殺人事件が脳裏をよぎる。

 

(被害者の女性はオズの領民だったとはいえ……)

「相談役たるあの方自ら調べるとは珍しいですね」
「そうかな?」
「そうですよ。キリエ様はオズファミリーの中で2番めに偉い方です」
「えー、そうだっけ?」

 

 支配者層にとっては常識中の常識を否定され、マンボイは首を傾げる。

 

「『私が1番です、カラミアなんて越えられない壁を経た後にぼんやりと見える2番手です!』ってこの間言ってたよね?」
「ああ、まあ……そうでしたね……」

 

 相手はキリエだ。冗談だろうと言い切れない。

 

「それで。キリエ様には納得して頂けましたか?」
「うーん、どうだろ。また来るって言ってたけど」

 

 アルファーニは胸の前で両手を軽く叩いた。

 

「そうそう、それでね。キリエちゃんがケーキをくれたんだ。マンボイちゃん一緒に食べようよ!」
「オレは別に――」
「歯磨きならまた後ですればいいでしょ。ほら早く!」

 

 ちんぷんかんぷんなことを言いながら、マンボイの腕を引っ張るアルファーニ。
 断らなければいけない理由のない従者は、「わかりました」と同意した。

 

「ケーキか……買収か、口止めか」
「マンボイちゃん疑い深すぎー。美味しいからくれたんだって、きっと!」

 

「だってすごく美味しそうなんだよ」とアルファーニは目を輝かせる。

 

(美味しければ下心がないなんて、どんな理屈だ)

 

 そう思いながら、マンボイはつられて笑う。
  春を売るこの館には、冬空のような身を貫く寒さしかない。
 だけど、まだ自分を失わずに生きていけるのは――。

 

「……ありがとうございます、アル」

 

 急な言葉にアルファーニは目を丸くし、それから「どういたしまして」と大きく頷いた。

 

「幸せは、分け与えるものだからね!」

 

<END>

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こんにちは、ゆーますです。

 

本日、別の記事でもお伝えしましたが、
今年に予定していたラジオと年始に予定していたラジオが収録できず、
来年に持ち越しとなりました。

 

役者さんのスケジュール調整に時間が掛かっているのだろうと思っていたのですが、
制作をお願いしている会社さん内での仕事の振り分けができておらず、
ずっと宙に浮いたままとなっていたようです。

 

「あけましておめでとう」から始まっていたメールなども
ピンポイントでなくなってしまいますが、必ず読ませて頂きますので
シークレットレイディオの配信を楽しみ待って頂けますと幸いです。

年始の思い出などのお便りもお待ちしております!

 

2017年も残りわずかとなりました!
個人的な来年の目標は、「ぬるぬる動く動画を作れるようになること」です。

視覚でも楽しめるラジオ作り頑張ります!

さといさんの復帰待ちですが、OZMAFIA!!0-RefleXion-も暁のベテルギウスも進めたい……。

OZMAFIA!!0-RefleXion-を先に作ることになり、ベテルギウスは一旦ストップとなっているので

発売までにベテルギウス☆が爆発してしまわないか心配です。
 

それでは、良いお年を!

 

ゆーます
Poni-Pachet

2017年11月 限定SS『診療所にて』ロビン・フッド&ハーメルン
こんにちは、ゆーますです。
11月が終わる!!!!!!!!!!!!!!

今回はロビン・フッドとハーメルンを。
時系列的に、オズゼロかオズゼロ前の話ですね。

表に出る部分(みなさまの目に映る部分)は活動休止中ですが、
自分だけでできる箇所、自分の担当箇所は少しずつ制作を進めています。

彼らに待ち受けてる未来が未来なので、
オズゼロでは幸せいっぱいにしてあげたいです。
(幸せがいっぱいなほど未来に絶望しそうですが……!)

さて!!! 明日から12月です。

実は、スケジュールの都合上今月ぐだレディの収録がありませんでした。
ですので、必然的に12月に2本録りとなります。

短期スパンで2本だとネタに困るので、メール投稿よろしくお願い致します!

https://customform.jp/form/input/9380/?key=4f33c142

それでは、12月にまたお会いしましょう!

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2017年11月 限定SS『診療所にて』
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 早朝、診療所にて。
 薬品の整理をしていたロビン・フッドの耳に、ゴツンと異音が届いた。
 ひとつしかないドアの向こうから、ゴソゴソと不思議な音が聞こえる。
「なんだろう」とロビン・フッドが顔をあげた瞬間――。
 
「ロビン君~~いる~?」
 
 間延びした、情けない男の声。

 声の主に心当たりがありまくるらしく、ロビン・フッドは「いない」と呟き、下を向いた。

「ロビン君、ロビン君~」

 ドンドン、ガンガン、無遠慮にドアを叩かれる。
 爽やかで穏やかな朝が台無しだ。

(まったく、この男は……)

 こめかみに手をあて、ため息をつく。
 返事をしない診療所の主、鳴り止まないノック音。
 先に音を上げたのは――。

「うごぁっ!?」

 急に開いたドアに対応できず、金髪の男が転がるように部屋へ雪崩れた。

「……何の用だ、ハーメルン」
「あ、ロビン君。おはよう!」

 男はへらへらと笑いながら立ち上がる。
 ハーメルン。貫禄がないが、グリムファミリーのボスだ。

「何の用だ」
「挨拶を返してくれないとは、泣けるねえ」

 ハーメルンはドアを閉じると、部屋を見渡した。

「ちょっとお薬を貰おうかと思ってさ」
「頭の?」
「言うと思った!」

 ハーメルンはロビン・フッドを指差し、けらけらと笑う。

(そこまで笑えるものなのか)

 安い男だなと思いながら、ロビン・フッドは薬棚に手を伸ばした。
 瓶をいくつか取り出し、テーブルに並べる。

「二日酔いなんだろう」
「おお、なんでわかるんだ」
「酒臭いからさ。受け取ったらさっさと出ていってくれ。臭いがうつると困る」
「いい臭いじゃねーか」
「診療所には合わない」

 納得したらしく、ハーメルンは「ああそうか」と頷いた。
 ロビン・フッドは調合を終えるとコップに水を汲んだ。
 薬包紙とともにハーメルンに渡し、服用を待つ。
 
「うへ、にっが……」
「良薬口に苦し、だ。ただし、良薬ではないけど」
「本当に? うわー、詐欺だ。ヤブ医者だ」

 ハーメルンは咳き込みながら、目尻に浮かぶ涙を指で拭う。

「二日酔いになるとわかってるのに懲りずに飲む男に、良薬は不要だろう。原料の無駄だ」
「無駄じゃないだろ。こうやって会う口実になったんだしさ」
「口実……?」
「ロビン君、最近遊んでくれないし」
「君という男は……」

 ロビン・フッドは穏やかな笑みを浮かべ、ハーメルンに歩み寄った。そして――。

「……いてっ」

 手に持っていたカルテで、彼の後頭部を軽く殴る。

「うっわ。お医者様が暴力振るうのってかなりクレイジーだろ!」
「君相手だから問題ない。僕は忙しいんだ、さっさと帰ってくれ」
「へいへい、オーケーわかりましたー」

 ボスらしからぬ態度のまま、ドアへ向かうハーメルン。
 ドアノブに手を掛けたところで振り返り、

「今夜飲もうぜ!」と明るく笑った。

「二日酔いの男が、何を言う」
「大丈夫、今夜は飲みすぎないようにするからさ! な!」

 呆れる医者の言葉を遮るように「な、な!」と鳴き声のように声を発する。

「考えておく」
「よっし、また夜に来るぜ!」

 ドアは閉じられ、足音が遠ざかっていく。
 漂う静けさの中、ロビン・フッドがため息を漏らす。

「考えておくだけで、飲むとは言っていない……」

 強引で、自分勝手で、明るくて――自分とは全く異なる人間。
 多くの者に慕われていて、その光の中で生きればいいのに。

(こんな僕を気にかけるなんて、無駄の極みだろうに……だけど……)

 本人には絶対に言ってやらないが。
『親友』として、嬉しくと思う。


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2017年10月 限定SS『トリックオア…』アクセル・カラミア・キリエ
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 ある日の午後、リビングルームにて。

 カラミアさんと僕は同じ部屋にいながら、別々のことをしていた。
 僕は買ってきた期間限定の菓子の選別。
 カラミアさんは……小さい文字がびっしりと書かれている書類に視線を落としている。
 おそらく仕事だろう。

「なあアクセル。お前ってどっち派だっけ」

 唐突な質問に、僕は言葉を詰まらせた。
 ……いや、言葉が詰まるのはいつものことか。

 視線を落とし思案するものの心当たりはなく。

「どっちとは」

 と伺うように尋ね返す。

「悪戯するほうとされるほう。どっちが好きだったんだろうってさ」
「ああ……」

 ハロウィンの話だということを理解でき、心の靄が消える。

「キリエの提案で領民に配り歩くことになったんだが、ほら、
 アクセルは菓子が好きだろ?」

「誰かに渡すは抵抗あるかと思ってさ」と笑われ、「いいえ」と首を横に振る。

「そこまで心が狭いつもりは………………キリエじゃあるま――がっ」

 ふいに後頭部を殴られ、一瞬よろめく。

「貴方は本当、一言余計ですね」

 振り返ればキリエの姿。
 その手には辞典レベルの分厚い本。

「僕じゃなければ、脳震盪を起こしていた……」
「貴方だから殴ったんですよ」

 キリエは笑みを湛えたまま本をテーブルの上に置き、その上に座った。

「わー。キリエ行儀わるーい」

 からかうカラミアさんを「野郎3人ソファに並んで座るなんて気持ち悪い」と鼻で笑う。

「ハロウィンの件、よろしくお願いします。
 オズの威厳に関わりますので」
「……威厳………………」

 僕の呟きにキリエは「何か」と言葉を投げかけた。
 なにか言えば、罵詈雑言製造機であるこいつは利子付きの文句を返してくる。
 見え透いた未来を前に黙っておこうかと思ったが、独り言を気づかれてしまったのだ。

(言わなければ言わないで、喚き散らされるか……)

 進むも地獄、下がるも地獄。
 ならば、と自殺行為を悔いながら口を開く。

「配る相手は領民だろう。無償奉仕ならば、威厳もなにも……ないのでは」

 顔色を伺いながら意見を述べる。
 僕の言葉尻を確認した後、キリエはわざとらしく大きなため息をついた。
 …………………………ムカつく。

「いつどこで何時何分誰が、配布対象は領民だと言ったのですか? そこの寝癖頭ライオンですか?」
「なっ……突然こっち降るなよ。気配消してたのに」
「貴方の気配は乱雑オブ・ザ・ワールドです。ちょっとやそっとで消えませんよ」

「気配が乱雑ってなんだよ」と頭を掻きつつ、カラミアさんは「俺は言ってない」と言った。
 彼に続き、僕も「誰にも聞いてない」と頷く。

「僕の勝手な想像だ。領民でないなら………………誰に渡すんだ」
「この街に住むすべての方です。カッコ、スラム街の住人以外、カッコ閉じる」

「実は」とキリエは足を組み直し、右手の人差し指をピンと立てた。

「他ファミリーのみなさんと勝負することになったんです。
 どのファミリーが一番ハロウィンの演出を上手くできるかという、ね」
「……………………くだらない」
「そうだろそうだろ? もっと言ってやれ、アクセル」
「ふたり仲良く庭に埋められたいのなら、どうぞお好きに」
「……生き埋めはちょっと厳しいな」

 ちょっとどころじゃないと思うが。
 ただの悪口はなんの意味もない――むしろ状況を悪化させることを察し、意識を切り替える。

「競い合いはくだらないが。祭りごとするのはいい試み……だと思う。
 街全体での娯楽は、あまりないから」
「そうですか、ありがとうございます」

 キリエは立ち上がると、指をパチンと鳴らした。
 バサバサという音と共に大量の何かが降り注ぎ、視界が真っ暗になる。

「トリック・オア・トリート。用意した菓子の一部です、配りきってくださいね」

 菓子……ああこの感触は、包装紙か。この匂いは……ソフトキャンディだ。
 身動きが取れず、わずかに指先が動くのみ。
 一体どれだけ僕の上に乗ってるんだ……?

「おいこらキリエ、俺まで巻き込まなくていいだろ!」
「ボスと幹部、なかよく悪戯されてください」

「では」という声と共に足音が遠ざかっている。
 聞こえるのは、もぞもぞとカラミアさんが藻掻いている音のみ。

(手の込んだ嫌がらせをさせたら世界一だろうな……)

 嫌だなと思いつつ満更でもないのは、甘ったるい匂いに包まれているからだろう。
 単純な自分の思考に呆れつつ。僕はまもなくやってくるハロウィンに想いを馳せるのだった。

 ……ちなみに。約1時間後、僕らは部下に救出された。
 

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こんにちは、Poni-Pachetのゆーますです。

 

すっかりハロウィンが浸透しましたね!

私が尋常小学校に通ってた頃はもっとマイナーだった気がします。

9月に入ればハロウィン。2ヶ月前から業界はクラウチングスタート。

カボチャが好きなので、カボチャの生産量はあがったのかとても気になります。

この調子でイースターも根付いてしまうのか!

単にそれっぽいお菓子が売られるだけでなく、卵に絵を描くのが当たり前になっていくのか! 未来が楽しみです。

2017年9月 限定SS『めぐる日曜』アクセル・ユーディ
「いや、マジで。マジで大問題っすよ、アクセルさん!」
「……」

 とある日曜、正午過ぎ。
 オズ領の大通りにて。
 
 普通、人で溢れる休日のこの時間こそ危険が生じるものだが。
『日曜協定』のおかげで、他マフィアとの衝突が起こらない分、この街は平和だ。

(……問題は、領民同士だ)

 平日はそうでもないのだが。日曜は領民同士の喧嘩に遭遇することが多い。
 カラミアさん曰く、休みの日は気が緩んでしまうもの……だそうだ。

 暴力沙汰は滅多にないものの、
 口喧嘩や痴話喧嘩など、僕が不得意とすることばかりで。
 いっそ暴力沙汰のほうがいいと、ろくでもないことを考えてしまう。

(その上、こいつのお守りだ……)

 ため息をつきながら、隣を歩く男に視線を向ける。
 名前はユーディ、僕の部下だ。

「オレ、こんなに小さい頃はすっげーモテてたんすよ!」

 ユーディは左腕を胸まで持ち上げ、スススと手を下げていった。
 あまりの低さに「…………学生時代?」と問えば、
「いーえ、5歳の頃っす」と被せるように言葉が返ってくる。

「5歳の時は、近所で評判のユーディちゃんでしたっす」

(自分で『評判』と言うか……?)

 自己評価が高すぎるだろう。
 キリエの悪い部分が感染ったかもしれない。

(……いや、訂正だ)

 キリエにいい部分などほぼ存在しない。

(いや、そんなことより……今はユーディだ)

 ただでさえ阿呆なのに。
 キリエみたいな性格になれば、いよいよ救いようがない。

(その時は……処分するしかない)

 ぐっと握りこぶしを作った僕を気にすることなく、ユーディはひたすら喋り続ける。

「人生でモテ期は3回あるっていいますけど。2回目いつですかね!?」

(……わかるはずないだろう……)

「トークは上手いし、顔だってそこそこいいのにどうして振られてばかりなのか!
 いやー、オズファミリー7不思議のひとつっすよ! マジで!」
「…………」

例えば、
『そういうテンションが引かれるのでは』とか。
『落ち着きがなさすぎる』だとか。

 ピシャリと言って、自信をへし折ってやりたい気持ちがふつふつと湧いてくるが……。

(……そんなことをしたら、ただただ落ち込ませるだけだ)

 呆れはするものの、ユーディを嫌っているわけではない。
 命を預かっている、大切な部下のひとりだ。
 心を傷つけるなど、してはならない。

「……ユーディ」

 名を呼びながら、彼の後頭部を小突く。

「任務を遂行しろ。そういった話は巡回後だ」
「は、はいっす」

 ユーディは背筋をピンと伸ばし、口を閉じた。
 
(やっと平常通りだ……)

 そう思った矢先――。

「おああああああああ!!!!!」

 頭を貫くようなユーディの叫び声に、思わず耳を塞ぐ。

「ユー……ディ……!」
「マジすか! 巡回後、付き合ってくれるんすか!?」

 キラキラと輝く彼の目。
 理解が追いつかず、怒りが霧散する。

「付き合う……僕が?」
「はい! さっき言ったじゃないですか『そういった話は巡回後だ』って」

 ユーディは僕の真似をしながら、距離を詰めた。

「つまりは、一緒にナンパしてくれるってことっすよね!?」
「は…………は?」

 彼なりの説明だろうが、ちっともわからない。

「アクセルさんがいるなら、絶対成功するっすよ。勝ったも当然っす! イエーイ!」
「……………………」

 何が「イエーイ」だ。

「付き合うなんて、僕は――」
「っと、アクセルさん。向こうで騒ぎが起こるかもしれないっす」

 ユーディの声色が変わったことに気づき、彼の指し示す方へ顔を向ける。

(二人組の男がただ立っているだけのようだが……あ)

 気のせいだろうと言おうと思った瞬間、片方が相手の胸ぐらを掴んだ。

「うっわ、大変だ……! 止めてくるっす!」

 僕の言葉を待たず、ユーディは走り始めた。
 背を追いかける僕よりも早く、ふたりに割って入る。

(……ああ、こういうところだ)

 周囲を見ていないようで、しっかり見ている。
 僕の気づかないことに、きちんと気づいてくれる。
 
 こういった細やかなところが、ユーディの良さだ。

(だが……今のところ、短所が多すぎる)

 年を重ねれば成長するだろうか、それとも酷くなるのだろうか。

(………………いや。今考えたところで意味がないな)

 悩むなら、終業後に待っているナンパのことだ。

(僕がナンパなんて…………………………………………ムリ)

 どうしたものかと思いながら、ユーディに近づく。

「アクセルさんの1番の部下、このユーディがやりましたよ!」

 まばゆい笑顔を向けられ、ため息が自然と漏れる。

(……ナンパのことも、考えないでおこう)

 ユーディが忘れてくれることを願いながら、僕は事情聴取を開始した。

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9月もとうとう終わりですね!

 

オズステが終わったのは初旬ですが、当時の気持ちを引きずったまま月末を迎えた気がします。

舞台の内容はガッツリ監修させて頂いたこともあり
胸をはれる内容となったのですが、問題は広報ですね……。

 

1番ユーザーの目に触れる部分なので、
もっと繊細に&慎重に動かないといけないところだと思い、

先方に色々ご提案させて頂いたものの、力及ばず。
私自身も広報経験があるだけに、とてももどかしかったです。

次、奇跡的にまたやることがあれば広報を任せて頂きたい……!

などなど、反省点も多々ありますが。

貴重な経験ができ、忙しくも充実した日々でした。

 

さといが半休養中ということもあり、

今年のAGFにはポニパチェは大きく関わりません。

Dramatic Create様のブースで過去販売したものの再販だけかなーと。

年内の活動は、ラジオ1回分。11月あたりの収録になるかと思います。

ご要望などありましたら、お聞かせくださいませ。

 

おまたせしていますシークレットレイディオは、

私自身が出演してしまったばかりに、音声を聞く勇気がなくずっと保留となっています。。

が、シークレットレイディオを配信するというエンティの趣旨に反しますので

今月中、必ずお届け致します!

 

夜がすっかり冷える時期となりました。

体調管理には充分お気をつけください。

 

ゆーます

2017年8月 限定SS『野郎3人、バーにて』アクセル・カラミア・キリエ

「……」

 オズ領内のとあるバーにて。
 1つのテーブルを3人の男が囲んでいた。
 
「カラミア、それ」
「『を、取ってください』だろ? ったく、手のかかる相談役様だぜ」
「手がかかる子ほど可愛いというでしょう?」
「お前は可愛かねーよ」

「…………」

 無言のアクセルを他所に、カラミアとキリエが楽しそうに話している。

(こんなはずではなかったのに……)

 3人で食事に出かけることは決まっていた。可能性が完全になかったわけではないが。
 まさか、行き先がバーだとは……。

(バーは苦手だ、スイーツの数が少ない。何より……)

 酒が飲めないアクセルには、この薄暗い空間が楽しめない。

(普通の料理店ならよかったのに……)

 バーに行くことになったきっかけはキリエの一言。
 なんだかんだ得意の説得術で言いくるめられ、今に至る。
 カラミアの命令に従ってキリエに声を掛けた時点で、敗北は確定していたのだ。

(こんなはずでは……)

 カラミアを裏切れず正直にキリエを誘ってしまったことを公開しつつ、両手で握っているグラスへ視線を落とす。
 中身はミルクセーキ。オプションで砂糖を5杯加えてもらった。

(この場でノンアルコールを飲んでいるのは僕だけだろうな……)

 カラミアはブランデー、キリエはウィスキー。
 周囲に目を配っても、シラフらしい者は1人もいない。

「アクセル、どうした。進んでないな」

 グラスの中の液体を転がしながら、ほろ酔いのカラミアがアクセルを伺う。

「僕は――」
「お子ちゃまだから退屈なんでしょう」

 微笑しながらキリエが言葉を被せる。

 お子ちゃまかどうかはともかく、退屈であることは否定できず。
 アクセルはキリエを睨むように目を細めた。

「これ、飲みます?」

 キリエは手を伸ばし、カラミアのグラスの縁に触れた。

「なんで俺のだよ」
「同性と飲み回しなんて嫌ですので」
「気にすることか?」

「変なの」と言いながら、頭を振る。

「アクセルに酒はタブーだ。飲ませたら最後、無事で帰れないからな」
「……」

 躊躇いつつ、アクセルは「ですが」と口を開いた。

「いつまでも飲めないというのは辛いです。少しずつ慣らすというのは――」
「慣らしている間に、バーが数件壊滅するでしょうね」
「…………」

 不満げなアクセルの背中をカラミアが擦る。

「楽しめないトコに連れてきた詫びだ。好きなだけスイーツを頼め」
「しかし……」
「心配すんな。酒が入ってるんだ、誰もお前のこと気にしねえよ」
「そうですよ。自意識過剰ブリキ眼鏡」

 言っている内容は同じなのに、言い方でこれほども違ってくるのか。
 カラミアの温かさをキリエの冷たさの差をひしひしと感じながら、店員を呼ぶ。

(好きなだけ、か……どれにしよう)

 種類の少なさは量で補えばいい。
 必要なのは、店員に伝える勇気だけ……。

「…………」

 つばを飲み込み、深く息を吸う。

「………………上から下まで、2つずつ……頼み、ます……」
「わかりましたー」

 店員は驚くことなく、あっさり去っていった。
 ほっと胸を撫で下ろしながら、店員の背を見つめ、それから周囲を見渡す。
 カラミアの言うとおり、アクセルに注目する者はひとりもいない。

(こんなことなら、もっと早く行動すべきだった)

 少し悔みつつ、スイーツを口にできる未来を思い浮かべる。

「……アクセルっていいよなあ」
「……?」

 名を呼ばれ、アクセルは顔をあげた。
 頬杖をつきながら微笑むカラミアと目が合う。

「なんですか、カラミアさん」
「スイーツ食べられるってだけで、幸せそうにする姿がさ。いいなーって思ってさ」

 酒が入っている分気が緩んでいるらしく、へらへらと笑うカラミア。
 その様子にキリエが「気持ち悪い」とため息をつく。

「私、男色の趣味はありませんので。続きは私のいないところでやってください」
「馬鹿、そういうのじゃねえっての。
 アクセルって、キリエと違ってちょっとしたことで喜んでくれるだろ? 可愛いと思わねえか」
「可愛い、ねえ」

 口を閉じ、じーっとアクセルを見つめるキリエ。
 数秒後、「思わねえ、ですよ」と肩を竦める。

「興ざめしましたので、私はこれにて」

「もう帰るのか?」とキョトンとするカラミアにキリエは、
「もっと愉しい場へ参ります」と妖しく微笑む。

「キリエ、やらしー」
「男らしい、と言ってください」

 ジャケットを整え、ウィスキーを一気に飲み干す。

「面倒事は起こすなよ」
「アクセルこそ、スイーツはほどほどに」

 店を去るキリエと入れ違いに、スイーツの群れがやってきた。
 クリームブリュレ、アイスクリーム、シャーベットと定番中の定番が小さなテーブルにずらりと並ぶ。

「見てるだけで腹が膨れるな」
「見てるだけでは減るばかりです」

 真面目に返すアクセルの姿は、とても嬉しそうで。
 いい酒の肴になりそうだと、カラミアは微笑んだ。

 

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大変お待たせしました、7月分・8月分更新いたしました!

舞台OZMAFIA!!が終わってからは少し落ち着くはずなので、月末にバタバタしないよう生きていきたいです。

 

21日に東京へ来てから、毎日舞台の稽古場に通っています。

休日は今のところ1日もないので、このまま公演までノンストップだと思います。体力勝負だー筋トレが趣味でよかったー!!

 

13時~21時は舞台の監修、23時~5時に普段の仕事、

9時に起床して11時に家を出て……の繰り返しでなかなかハードですが

それもあと少しですので! ガス欠にならないよう気をつけながら悔いのないよう走りきります!

 

いよいよ9月! 過ごしやすい気温になりますように!

 

Poni-Pachet/ゆーます

2017年7月 限定SS『スイーツ事変』アクセル・カラミア

 ――夕方頃、オズファミリーの屋敷。

「……?」

 巡回を終え、リビングルームへ入ってきたアクセル。

「……これは……」

 テーブルの上には、手に収まる程度の小さな箱。

「…………」

 無視しようと思ったが、どうしてか惹きつけられる。

(『どうして』の理由は簡単だ。これは……)

 目を閉じ、遺伝子レベルで脳に刻みこまれている大好きな香りと照合する。
 ふわふわととろける砂糖。
 喉を焦がすような蜂蜜。
 後味を際立たせるシナモン。
 
 スイーツだ。
 あの箱の中にはスイーツが確実に存在する。

(しかし、どうして……)

 こんな場所にスイーツが放置されているのだろう。
 不思議で仕方がない。

(……つまりは……)

 間違いない。キリエの罠だ。
 
「…………………………」

 罠だとすれば、近寄るわけにはいかない。
 ……いかない、のだが。

「…………………………………………」

 中身がスイーツの場合は例外だ。
 簡単には引き下がりたくない。

 自分のものにならないとしても、何が入っているのかが知りたい。

(どうすべきか……)

 何も考えずに手を伸ばすわけにはいかない。
 策を練るべく、腕を組みながらテーブルの周囲をぐるぐる歩く。

(……。
 ……良案が思い浮かばない。いっそ……)

 わざと罠にかかるのはどうだろう。
 怪我をするかもしれないが、スイーツは手に入る。

(……よくない。駄目だ)

 キリエのことだ、僕の考えなんてお見通しのはず。
 中に何もないかもしれない。

(けど……この匂い、偽物とは思えない)

 嗅覚と直感を疑いたくない。

(一体どうすれば……)

「おっ、アクセル」

 ドアの開閉音と共に、カラミアが現れた。

「どうした。眉間にしわがよってるぞ」
「カラミアさん……」

 自身の眉間に触れながら、「これ」と言いテーブルへ視線を向ける。

「キリエの罠があるのですが」
「罠?」

 カラミアの目線はアクセルの指を辿り、テーブルへ。

「これが?」
「あっ!」

 無防備に近づくカラミアに、アクセルは慌てて手を伸ばす。
 
「危ない!」

 背中を掴み、後方へ。庇うようにテーブルへなだれ込む。

「しまった……!」

 弾き飛ばされ、カラカラと音を立て床を転がる小箱。
 爆風の可能性に備え、目をぎゅっと瞑る。

 1秒、2秒、3秒――。

「…………?」

 漂う沈黙に、ゆっくり目を開ける。

「なあ、アクセル」
「……」
「何も起こらないんだが」
「………………はい」

 なんとも気まずい。
 目を合わせられず、アクセルは咳払いをしながら顔を背ける。

「キリエを警戒しすぎだ」

 カラミアは笑いながらアクセルの背中をトンと叩き、落ちた小箱に手を伸ばす。
 掴んだついでに振ってみたが、何も起こらない。

「『しすぎ』ではありません。誰よりも危険な男です」
「仲間だぜ、ちょっとは信じてやれって」
「無理です。絶対に」

 頑なな態度に苦笑しながら、カラミアは箱を開けた。

「うまそうなマドレーヌだ。誰のだろうな?」
「……僕……のでは、ありません」
「そっか。後でキリエに聞いてみるか」
「……」

 もとより他人のものだ、食べられるはずがないのだが。
 自分のものを取られたような錯覚に胸が苦しくなる。

「今からメシを食いに行くんだが、一緒にどうだ?」
「メシ……」
「ああ。たまには奢ってやるよ」
「カラミアさんの奢り……!」

 一気に明るくなったアクセルの顔に、わかりやすいヤツだとカラミアは笑う。

「ただし、常識の範囲でな」
「多すぎだっつの。じゃ、キリエを呼んできてくれ」
「……はァ?」

 予想外の展開に、思わず声が裏返ってしまう。

「あいつだけ仲間はずれってのは可哀想だろ。あとでグチグチ言われるのも嫌だしな」
「あー……」

 カラミアの言うことはわかる。
 キリエのことだ、ここぞとばかりに文句を垂れるだろう。
 だが。しかし。

「5分後、玄関前に集合な。任せたぜ」

 そう言ってカラミアは鼻歌を歌いながらドアを開けて出ていった。

(……キリエが見つからなかったと嘘をつくのは……)

 無理・アンド・無駄。復讐が怖い。
 
 せめてキリエの機嫌がいいことを祈りながら。
 アクセルはカラミアの後を追うように部屋から出た。

2017年6月 限定SS『ある雨の日』カラミア・キリエ
 昼、執務室にて。
 窓から見える空は灰色。雨が絶えることなく降っている。

「――今日も雨か」
「それ、昨日も言っていましたよ」

 カラミアの独り言に対し、独り言のように返すキリエ。

「まあな」
「一昨日もその前も言っていました。丁度今の時刻に。
 よく言えばタイムループの疑似体験。
 悪く言えば貴方の行動はワンパターンですね、カラミア」
「……仕方ないだろ。ここんとこずっと雨なんだから」

 何が仕方ないのか、自分で言っていてよくわからないものの。
 キリエは揚げ足取りすることなく、手元の紙に字を綴っている。

「なあ。このままずっと止まなかったらどうする?」
「非現実的な想像は無意味です。
 ただでさえ少ない脳細胞です。もっと有意義なことに使いなさい」

 キリエはペンを置き「ばーか」というなんとも幼稚な言葉で発言を締めた。
 立ち上がり、窓際へと向かう。

「いや、現実的な話だって。
 雨が止まなけりゃ色々大変だろ。水害とかさ」
「水害、ねえ」

 窓を開け、手袋を外し手を伸ばす。

「こんな小雨、水害の『す』も起こりえませんが。
 どうしてそんなに雨が気になるんです?」

 カラミアの様子を伺いながら手袋を嵌め、窓を閉じる。

「いやー、別に」
「ふうん」

 2歩、3歩とカラミアに近づき――。

「どうしてですか?」とカラミアの椅子の縁に左手を置き再び尋ねる。
 右手にはハンドガン。カラミアのこめかみにあてながら。

「理由、なにかしらあるんでしょう?」
「なっ!? いつの間に……」

 引き出しに入れていたはずではと焦るが、
 確認しようにも身じろぎできない。

 くすくすと笑い声が聞こえる。
 カラミアには見えないが、いつもの意地悪な笑みを浮かべているに違いない。

「話しなさい、カラミア」

 カラミアは支配者層だ。
 どこを撃たれようが死なないが、痛覚がないわけではない。
 痛いものは痛い上、ロビン・フッドに経緯を話せば不機嫌かつ乱暴に治療されるだろう。

「話すから、やめろって」

 観念したらしく、カラミアは渋々両手を上げた。

「ってか、普通に聞けよ。
 人に頼む態度じゃねえぞ、それ」
「そうですか?」

 キリエはハンドガンを執務机の上に置き、くるりと身を翻した。
 机に腰を預け、胸の前で腕を組む。

「お嬢さんと約束してんだよ。日曜、晴れたら出かけようって」
「どこへ?」
「アンデルセンのトコの――痛っ」

 ガン、と足を蹴られた。
 電流に似たしびれの後、鈍い痛みがじわじわと広がっていく。

「何をしに?」
「ぐっ……尋ねるか暴力を振るうかどっちかにしろ」
「どちらもします。私、器用なので。
 で、何をしに行くんです?」
「釣りだよ。
 お嬢さんと、あとアクセルも一緒だ。
 なんでも、日曜限定で他領民に開放するんだと」

 足を擦りながら、「しっかり金を取るらしいけどな」と付け加える。

「ここずっと忙しいんだろ? どうせ呼んでもこないだろと思ってさ」
「声を掛けるのが礼儀というものでしょう」

「礼儀なあ」

 銃を突きつけ、足を蹴ってきた男に似つかわしくない言葉だが。

「まあ、悪かったよ。仲間はずれはよくないよな」

 人が良い彼は結局頭を下げてしまう。
 
「で、来るのかよ」
「行きませんよ」
「……」

「ほらやっぱり」と言いたげな表情のカラミア。
 予想通りの反応に微笑みながら、キリエは「しかし」と言葉を続けた。

「お土産は楽しみにしていてあげます。忘れないで下さいね」
「土産って……魚とか? 飼うのか?」
「いいえ。アクアリウムの趣味はありません」

 カラミアは「だよなあ」と頷きながら椅子に座り直す。
 魚料理だって特別好きというわけでもないはず。

「土産なあ……。
 アンデルセンのトコ、何があったかな」

 自然豊かな土地だ、自活する上では苦労しないだろうが。
 観光地ではないため、目ぼしいものがない。

「探せば見つかるかね……」
「野生の勘とやらで見つけてください」

 キリエの言葉に「こちとら、人間になって長いんですが」とおどける。

「あと土産話もお願いします。
 貴方のお嬢さんが転んだだの行方不明になっただの、アクセルが湖に沈んだだの……」
「不吉な例えはやめろよ、おっかねえ」
「ふふ、そうですね。言葉は言霊。口にすれば叶うものと――」

 ふと黙るキリエに、「どうした」と声を掛ける。

「我ながら馬鹿らしいことを言ってしまったな、と」
「馬鹿らしいって……」

 天井を見上げながら振り返ってみるものの、さっぱりわからない。

「何の話だ?」
「さあ、なんでしょうね?」

 キリエは追求するなと言わんばかりに背を正し、ソファへと向かった。

「未来の話はこれまでにして、今は現実と向き合いましょう」
「そうだな。仕事を残したままじゃ、遊びに行けないしな」
「そういうことです」

 ふたりとも沈黙すれば、再び雨音がしとしとと部屋に響く。

「……日曜、晴れるといいですね」

 キリエの意外な言葉に顔をあげるカラミア。
 
 不意打ちに似たそれに驚きながら、「ああ」と穏やかに笑った。

<終わり>

 

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ギリギリまにあいました!!!!!!

予想通り6月は忙しく、
先ほど今月5回目の東京出張を終えて帰宅しました。
ただいま京都! いよいよ祇園祭だ!!

 

さてさて。
OZMAFIA!!はおかげさまで無事4周年を無事迎えることができました。
毎年ぷらいべったーに書いている作文はラジオ本編配信時に提出します。

 

シークレットレイディオの方は実は完成しているのですが
本編のことを話しているので、本編後の配信になるかと思います。

 

どちらも、プレラジオ同様バイノーラルマイクで収録しております。

囁き系のシチュエーションCDとかで使用する、ちょっとお高いマイクです。

 

バイノーラルマイク用の台本は書いたことがあるものの、

収録に立ち会うのは今回が初めてでした。初めてがラジオて。

ちょいちょいバイノーラルマイクならではの遊びを取り入れてもらっているので
楽しみに待って頂けると嬉しいです!

 

ゆーます

 

PS

ネタに困るとカラミアとキリエばかり喋らせてしまうので

いつかリクエストボックス作らせてください!

2017年5月 限定SS『終わりなきもの』ハーメルン・キリエ
年始の1月、エイプリルフールの4月、
そしてPC版発売月の6月は忙しい時期3兄弟です。

 

しかも発売日の6月28日の周辺にはオスカー・ワイルドの誕生日が重なってるという。

 

支配者層の誕生日は各々が勝手に決めたもので、
オスカー・ワイルド組は
「誕生日を集中させることで娼館内で誕生日キャンペーンしようぜ!!!」
という商業主義な理由から3日連続になっています。

(なので、その期間のサロンは特別価格で利用できるんだと思います。
 カルディの創業祭みたいな)

 

ですが、なにもPC版発売日に寄せなくてもよかろう。
迷惑だなあと思います。誰が誕生日を決めたんだ。私です。

 

話は変わりまして、今回のSSはハーメルンとキリエ。
 

このあたりの話はどこを切り取っても重いんですが、
書き甲斐のある内容なので書いてて楽しいです。

しかし次は明るい内容にしようと思います! 重すぎました!

 

5月もあとすこしで終わり、いよいよ6月です。
ソシャゲ、今日中のログインボーナスちゃんと受け取りましたか?

私はたぶんバッチリです!!

 

それでは、よい6月をお迎えください!

 

ゆーます Poni-Pachet

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2017年5月 限定SS『終わりなきもの』ハーメルン・キリエ

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 長い、長い、悪い夢。
 嫌な思いをするものの、嫌いじゃない。
 どれだけ辛くても、ハッと起きればそこで終わるからだ。
 
 嫌いなのは現実だ。
 目覚めたところで、どこまでもまっすぐに続く。
 曲がり角も分岐点も、光もない。
「夢であればいいのに」と願ったところで、望みもない。

 ああ、本当に――。
 どうしてこうなってしまったんだろう。

 

 ◆  ◆

 

 この街の牢獄は、街の中心部にひっそりと存在している。
 そこは『元・裁判所』。
 マフィアが街を分割統治するまで機能していた、正義の名残。
 
 その最奥に、永久牢獄がある。
 外界の音が通気口から漏れ聞こえることはあるものの、隔離されたそこは常に薄暗い。

 

(いつまで、ここに繋がれてるんだか)

 

 牢の中。
 鎖で手を繋がれた男が、はあ、と小さくため息をつく。
 静けさが保たれたこの空間では、ため息さえも大きく聞こえる。

 

(……いつまでも、か)

 

 男は、牢の中央で寝転んでいた。
 話し相手さえいない状況では、何もすることがない。
 できることといえば、寝返りのみだ。
 だがそれも、生理的なもので楽しいことではない。
 生きる屍のようだと、男は鼻で笑う。

 

(ん……)

 

 異音が耳に入り、頭をあげる。

 

(足音か。誰だ、こんなところに来る物好きは)

 

 口の端をあげ、頭を再び床へ置く。
 まぶたを閉じ、足音から相手を推測しようと試みる。

 

(ヒールの音からして……男、成人……)

 

 わずかなヒントから、候補を選定していく。

 

「――いつ来ても、不快ですね」

 

 答えにたどり着くよりも早く足音が止まり、涼しげな声が降りかかる。

 

(ああ、この声は……)

 

 候補の中、ひとりにスポットライトが絞られた。
 まぶたを開け、牢の向こうへと視線をやり答えを確認する。

 

「やっぱり、キリエくんか」
「こんにちは、ハーメルン」

 

 キリエはにこりと微笑むと、ポケットから鍵の束を取り出した。
 そのうちのひとつを牢の鍵穴へ差し込む。

 

「おや、もう出してもらえるのか?」
「まさか、馬鹿をおっしゃい」

 

 解錠し、牢へ足を踏み入れる。

「歩き疲れてクタクタなんです。少し休憩させてください」

 キリエはそう言うと、牢の中にある簡易ベッドへ近づいた。
 胸ポケットからハンカチを抜き、ベッドへ敷いてその上に座る。

 

「相変わらず上品なことで」

 

 ハーメルンは喉を鳴らして笑うと、身を翻してうつ伏せになりキリエを観察した。

 

(ところどころ濡れてるな……外は雨か)

 

 雨音が聞こえないということは、小雨だろう。

 

「疲れたのなら、カフェやらサロンやらへ行けばいいのに。どうして来たんだ?」

 

 キリエは「落ちぶれた貴方の醜い姿を見るため、ですね」と答え、足を組む。

「いい趣味してるねえ、まったく」

 

 雨水が靴から滴り落ち、床に滲む。

 

「――あと、貴方の処遇が決まったことをお伝えしようかと」

 

 ひさしぶりの人との交流を少なからず楽しんでいたハーメルンだったが、
 その言葉に、頭が真っ白になる。
 
「処遇……」
「ええ。街からの追放です」
「……」

 

 ハーメルンはやや黙った後、「そうか」と呟いた。

 

「あれだけのことをしたにしちゃ、随分と生ぬるい処遇だな」
「どう処せられると思っていました? 例えば――」

「こうですか」

 

 キリエは懐からハンドガンを取り出し、ハーメルンの頭に狙いを定める。

 

「撃つのか」
「撃ってほしいですか?」
「そうしてくれると助かるんだが」
「じゃあしません。助けたくないので」

 

 くすくすと笑い、ハンドガンを持ったまま膝の上に手を下ろす。

 

「撃ったところで死にませんし、ケガをさせたところで運び込まれるのは『例の場所』。
 そんなことをしては、私までも彼に恨まれてしまいます」
「……」

 

 以前のハーメルンなら「元々いい印象持たれてない」などと笑い飛ばせたはずだが。
『彼』の顔を思い出しただけで包帯で覆われた片目が疼き、言葉が霧散する。

 

「……ロビン君はなんか言ってたか」
「貴方が死ぬほど憎いそうですよ。
『死ぬほど』なんて、可笑しいですね。我々は死ねないのに」
「確かに……笑える」

 

 ハーメルンは眉間にしわを寄せ、きつく唇を噛んだ。
 
 痛い。血の味がする。
 
 だが、ただそれだけ。
 親友だった者の苦しみに比べれば、塵以下だ。

 

「オレは死ねないのに、どうして追放するんだ」
「ここにいるより、外にいる方が貴方にとって酷だからですよ」

 

 キリエはハンドガンの銃身に触れながら、
 音読するかのようにすらすらと言葉を並べる。

 

「あれだけのことをしでかしておいて、
 食と住が保証されている監禁生活なんて生ぬるいですからね。
 街の外へ放り出すのが一番なんです。
『支配者層』たる貴方はこの街から離れることができない、ですが入ることもできない。
 他マフィアに領地を削られ窮地に陥るファミリーに手出しできない。
 自身の過ちが、大切な者たちを苦しめるんです。
 ボスたる貴方にとっては、最大の苦痛でしょうね」
 

「……本当……」
「悪趣味ですよね」

 ハーメルンが飲み込んだ言葉を、キリエ自身が言い放つ。
 
「誰の案だ」
「さあ、誰でしょう?」

 

 キリエは人差し指を自身の唇にあて、「会合で決めたことですので。バラせません」と意地悪な笑みを浮かべた。
 
 ハンドガンを懐に戻し、すくっと立ち上がる。

 

「見事野垂れ死ぬことができた暁にはぜひご一報ください。
 支配者層でも死ぬのだという貴重な事例として語り継いであげますので」
「死んだら一報できないだろ」

 キリエは「よい旅を」とだけ告げ、牢の外へと出た。
 再び鍵がかけられ、足音が遠ざかり消えていく。

 

「旅、な……」

 

 してみたいと願うことはあっても、しようと思ったことはなかった。
 キリエの言った通り、ハーメルンは支配者層。
『街から離れられるはずがない』ことは、本能でわかっている。

 

「……ああ、まったく」

 

 牢を出た先――この街の外は、多くの曲がり角や分岐点、光があるだろう。
 だが、望みはやはりない。

 

「泣けるね」

 

 どこにもない。この先ずっと、見つかることもない。

 あの日砕けたまま、どこかへ消えてしまった。

 

<終わり>

2017年4月 限定SS『東京なな奈事変<前編・後編>』※『un-Secret Meeting!!』掛け合い用にかきおろした原稿です
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2017年4月 限定SS『東京なな奈事変<前編・後編>』
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今回は、タイムリーなので

先日行いました『OZMAFIA!! un-Secret Meeting!!』内の

掛け合いの為にかきおろした原稿を掲載いたします。

 

ああいった生の掛け合いはアドリブが入るのが面白いですね。

私は裏方で仕事があったのでちゃんと見ることができなかったのですが、

イベントに参加された方はあの時のやりとりを思い出しつつ。

参加できなかった方はこういった掛け合いがあったんだなと想像しながら

読んで頂けますと幸いです!

 

ゆーます

 

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<ドラマ1>

カラミア    「なあ、アクセル。こっちの道で本当に合ってるのか?」
アクセル    「はい、問題ありません」
キリエ    「問題あるから、カラミアは尋ねたのですが?」
アクセル    「(ムッとして)この地へは1年ほど前に来たことがある。問題ない」
カラミア    「ええと確か……池袋っつーとこにあるスイーツなんとかって店に行ったんだよな?」
アクセル    「はい。ですからあの時の記憶を辿れば間違いなく――」
キリエ    「つきませんよ。記憶を辿ったところで着くのはスイーツ屋。今日の目的地ではないでしょう」
キリエ    「ここ東京は特別区だけで23区あるのです。足立区、荒川区、板橋区、などなど。奇跡など起こりえません」
カラミア    「やけに詳しいな」
キリエ    「別荘があるので」
カラミア    「マジかよ。一体どこに……いや、その話は後でだ」
キリエ    「ええ。まずは今日のことです。ニッショーホールとやらを探さないと」
アクセル    「……別荘があるなら、ニッショーホールのある場所もわかるだろう?」
キリエ    「知りませんよ。微塵も興味がありませんので」
カラミア    「そうかよ。しかしアクセル、なんだその大荷物。会合に必要なモノか?」
アクセル    「いえ、これは――」
キリエ    「東京ナナナです」
カラミア    「は?」
キリエ    「東京ナナナ。私たちと合流する前、東京駅で購入したようです。13個ほど」
カラミア    「なんだ、その東京ナナナっていうのは」
キリエ    「東京で買えるベタなお土産ですよ。1箱に菓子がそれなりに入っていて、撒き餌のように四方八方に配れる、己の好感度及び点数を稼ぐのにもってこいのシロモノ。いわゆるチートアイテムです」
カラミア    「なるほど。つまりソルジャーたちへの土産ってことか。カポレジームの鑑だな」
アクセル    「いえこれは…………自分用です」
カラミア・キリエ    「アクセル……」
キリエ    「強欲ですね。レシートくらいくれてやったらどうです?」
アクセル    「そうだな……いや、駄目だ。経費の申請に必要だ」
キリエ    「はあ? 自分の欲望のために購入したものを経費で落とすですって? 認めません却下ですおととい来やがれです」
アクセル    「……じゃあ、レシートを土産に」
カラミア    「いやいや。んなモンやっても戸惑わせるだけだろ」
カラミア    「多少は俺も出してやるからさ。なんか買ってやれって。な?」
アクセル    「ありがとうございます。カラミアさんは優しいな。それに比べて……」
キリエ    「土産にレシートを渡そうとした男に言われたくありませんね」
アクセル    「むっ。そもそも提案したのはお前……あ」
カラミア    「どうした」
アクセル    「向こうから走ってくるのは……」

※ソウ、駆け足でやってくる

ソウ    「おーい!!」
カラミア    「ソウ、と……」
シーザー    「引っ張るな。俺は帰るぞ。人混みは嫌いだ」
ソウ    「ダメです。行くって約束したんです、約束はちゃんと守ってください」
シーザー    「約束などしていない」
ソウ    「しましたよ! いい子にしたら肉料理をいーーっぱい作るって!」
アクセル    「いい子……」
キリエ    「ガキですね」
シーザー    「あァ? 俺のことをガキと言ったヤツは誰だ」
キリエ    「カラミアです」
カラミア    「はぁ?」
シーザー    「ライオン、貴様……」
カラミア    「いや、言ってねーし。なすりつけんなよ、キリエ」
シーザー    「どっちでもいい。ふたりとも八つ裂きにするだけだ」
ソウ    「ああっ。シーザーさん、剣を抜いちゃダメです!」
シーザー    「なっ!?」
シーザー    「お、俺の剣が……ニンジンになってる、だと!?」
ソウ    「もー。抜いちゃダメって言ったのに……」
シーザー    「ソウ、どういうことだ!?」
ソウ    「この国では、剣を持ち歩くのは犯罪らしくて」
ソウ    「シーザーが『職業不詳外国人、銃刀法違反で逮捕!』とかならないよう、事前にすり替えておいたんです」
シーザー    「くっ。やけに軽いと思ったら、そういうことだったか……不覚だ」
カラミア    「いや、気づくだろう。普通」
キリエ    「気づきませんよ、馬鹿ですし」
シーザー    「カカシ」
カラミア    「どーどー、仲良くしようぜ、オオカミちゃんよ。っつーか助かったぜ、ソウ。俺達道に迷っててさー」
ソウ    「え、カラカラ達も?」
アクセル    「達も、ということ……」
ソウ    「実は、俺とシーザーさんも、迷っちゃってた……ははは」
カラミア    「ソウー」
ソウ    「だ、だって、広すぎる東京がいけないんだよ。移動手段も多すぎだし、シーザーさんエレベーター怖がるし!」
キリエ    「ソウも頼れず、シーザーは言わずもがな。八方塞がりですね」
シーザー    「フン、クソが。勝手に決めつけるな、カカシ。俺はどこを目指せばいいか知っている。一部だけだがな!!!」
カラミア    「一部だけって……なんでそう偉そうに言えるのか謎すぎるんだが。少しわかるだけでもいいか」
カラミア    「で、どこに行けばいいんだ?」
シーザー    「なんとかの門だ」
ソウ    「なんとかって、何ですか」
シーザー    「知るか。忘れた」
ソウ    「ええー。それ絶対、大事なところですよ!」
シーザー    「チッ。あー……確か、動物だ」
アクセル    「動物の門」
シーザー    「違う。動物の種類だ」
カラミア    「ライオン」
シーザー    「違う」
ソウ    「オオカミ!」
シーザー    「違う。だが……オオカミの門か。悪くない」
シーザー    「よし、ソウ。オオカミの門を目指すぞ!」
ソウ    「ええー。ないものを探すのって、骨折りどころじゃないですよ」
シーザー    「東京にはなくても、他にはあるかもしれないだろう」
ソウ    「あったとしても、目的地と関係ないです!」
スカーレット    「虎ノ門だ」
カラミア    「虎? 虎ならライオンの方がよくないか」
スカーレット    「良いも悪いもない。僕たちが目指すべき場所は、東京メトロ銀座線『虎の門』だ」
スカーレット    「そして。虎の門はすぐそこ。僕たちの目の前にある」
ソウ    「わ……大変だ。オレの頭に、スカスカからテレパシーが……」
スカーレット    「テレパシーじゃない。僕はここにいる!」
アクセル    「ここ? ああ……後ろに居たのか、気づかなかった」
カラミア    「いるなら声掛けてくれよ」
スカーレット    「そうしたかったが、できなかった。間髪入れずに話してるから」
キリエ    「ボイスドラマとはそういうものですよ」
カラミア    「キリエ」
キリエ    「おっと失敬」
ソウ    「迷いながらも、なんとか目的地にたどり着けたようですよ。やりましたね、シーザーさん!」
スカーレット    「迷いながらって。事前にちゃんと打ち合わせしたのに」
カラミア    「いやー。グループ行動の罠っつーか。キリエを頼ればいいって思っちまってさ」
アクセル    「僕も。こういうことはコンシリエーレの仕事だ」
キリエ    「これに懲りたら、なんでもかんでも私に押し付けないことですね」
ソウ    「オレ、ちゃんと覚えてたつもりなんだけど。実際来てみたら記憶がばーっと飛んじゃって!」
ソウ    「ひとりで来れるなんて、スカスカはえらいね!」
スカーレット    「会合前にファミリーのみんなへのお土産を買いたかったから早めに来た、それだけだ」
キリエ    「お土産、ですか。貴方こそカポレジームの鑑。どこぞのむっつりメガネとは違うますねえ」
スカーレット    「むっつり……なんだって?」
カラミア    「アクセルのヤツ、大荷物だろ? 全部、自分用の土産なんだぜ」
キリエ    「血も涙も部下への愛もない。同じファミリーとして恥ずかしいです」
アクセル    「お、お前に言われたくない。先に行く!」
スカーレット    「あ。アクセルさん、そっちじゃない。ニッショーホールはこっちだ」
アクセル    「くっ……」
ソウ    「あはは。あっくん、顔がまっかだ~」
ソウ    「シーザーさんシーザーさん。今日の集い、楽しみですね!」
シーザー    「そんなことはない」
ソウ    「またまた~。昨日はあんなにソワソワしてたのに」
ユーディ    「あー! ボス、キリエさん、アクセルさん! その他のみなさん!」
スカーレット    「君は……」
ユーディ    「どうも! オレはユーディ、オズファミリーのソルジャーで、アクセルさんの一番の部下っす!」
ユーディ    「っとと、悠長に挨拶してる場合じゃないっす。みなさん、首をながーーーくして待ってますよ!」
カラミア    「マジか。急がないと。ほら、早く行こうぜ」
シーザー    「断る。俺は誰の指図も受けん。待たせとけ」
ソウ    「シーザーさん。そんなことを言う人は、食事抜きですよ!」
シーザー    「チッ……わかった、行ってやる」
キリエ    「ちょろオオカミですねえ。ま、扱いやすくていいですが」
カラミア    「待たせたな。『OZMAFIA!! UNSECRET MEETING!!』、スタートだ!」

<終わり>
 

<ドラマ2>

カラミア    「あれこれしてたら、腹が減ってきたな」
キリエ    「そうですね。アクセル。その東京ナナナ、私にください」
アクセル    「断る」
キリエ    「へーえ、ふーん……。コンシリエーレたる私にそのような態度をするとは、勇気がありますね」
キリエ    「東京ナナナを譲らなかったばかりに私が餓死し、その結果オズファミリーが潰れた場合。全責任を負う覚悟があると言うんですね」
アクセル    「ぐっ……」
スカーレット    「少し食事を摂らなかっただけで、餓死はしないだろう」
ソウ    「だけど、甘いものに関してはほんっとーに頑固だよね、あっくんって!」
シーザー    「そうなのか」
ソウ    「はい?」
シーザー    「……?」
ソウ    「オレの名前を呼びましたよね……って、あ。今のは違うか」
シーザー    「当たり前だ。チッ……貴様の名前は紛らわしすぎる。改名しろ」
ソウ    「ええー」
キリエ    「奇遇ですね。私も賛成です」
ソウ    「キリエまで、ひどい! みんなもそう思うの?」
スカーレット    「名はひとりひとりに与えられた特別なもの。だけど、紛らわしいという意見は理解できる」
カラミア    「変えるなら、代わりの名前を考えないとな。そういうのは得意だ、任せてくれ」
アクセル    「ボスは領民に命名を依頼されることが多いですからね」
ソウ    「そっかー。だったら安心だね!」
ソウ    「って、安心じゃないない! いやだよ。オレ、この名前気に入ってるんだから」
ソウ    「みんなだってそうでしょ? スカスカだって、スカスカって名前気に入ってるよね? ね?」
スカーレット    「僕はスカスカじゃない、スカーレットだ。気に入っているかと言われれば……微妙だな」
アクセル    「どうして」
スカーレット    「女みたいな名だとよく言われるからだ」
スカーレット    「名は、生を受けた時に最初に与えられる贈り物。拒絶するつもりはないが、もっと男らしい名前が欲しかった……とも思う」
キリエ    「ヒゲ面ふと眉太郎とか?」
スカーレット    「嫌だ。第一、僕にはヒゲはないし眉も太くない」
カラミア    「じゃあ、ヒゲ面ふと眉になるはず太郎!」
スカーレット    「そんな予定はない」
アクセル    「では、ヒゲも眉もない……マン」
スカーレット    「いやだ。顔のパーツの話題から離れてくれ」
シーザー    「フン。オズの3馬鹿どもはクソだな。赤いの。この俺が貴様に名をくれてやろう!」
スカーレット    「望んではいないんだが……」
シーザー    「今日から貴様の名前は……肉だ!」
ソウ    「うわ……うちのシーザーさんが本当すみません、ごめんなさい」
シーザー    「何を謝る必要がある。最高の名だろう。赤といえば肉、肉といえば赤……」
ソウ    「シーザーさんはお肉の話がしたいだけでしょう? もう~」
スカーレット    「肉も嫌だ……やっぱりスカーレットでいい」
スカーレット    「ハーメルンさんは、いい名前だって褒めてくれたし……」
カラミア    「ハーメルン、なあ。そうだ、あいつらへの土産、何を買ったんだ?」
スカーレット    「気になるのか?」
カラミア    「ああ。お嬢さんへのプレゼントの参考にしようと思ってさ」
キリエ    「貴方という人は。いつでもどこでも、お嬢さんのことばかりですね」
カラミア    「いつでもってワケじゃないけど。笑顔で留守番を引き受けてくれたんだ、何か買って帰ってやるべきだろ」
スカーレット    「参考にならないと思うが……」
スカーレット    「東京のタペストリーに……マグカップ、キーホルダー、ポストカード……」
キリエ    「うわ、センスがゴミですね」
アクセル    「キリエ」
キリエ    「失礼、言い間違えました。スカーレットのチョイスは趣がありますね見習いたくありませんし参考になりませんけど」
ソウ    「うわ、本音がダダ漏れだ」
キリエ    「私、ウソはつけないタイプなんです」
カラミア    「それがまずウソだろ。ったく……」
スカーレット    「センスがゴミ……」
カラミア    「あーあーあー。落ち込むな。どれもこれもその……キングオブお土産っての? ザ・旅行って感じでいいと思うぜ!」
スカーレット    「そうだろうか」
ソウ    「うんうん。東京にいってきましたオーラがばーってでてて、疑いようがない感じ! オレ、すっごくいいと思うな!」
シーザー    「タペストリーは食えんぞ。食えん土産に価値などない」
アクセル    「僕が貰う側なら。食べられるものの方が……嬉しい」
スカーレット    「む……やはりあの時、浅草でせんべいを買えばよかったか」
カラミア    「いやいや。プレゼントは気持ちが大切なんだ。みんなのことを考えながら選んだんだろ? だったら、スカーレットがこれと思って買ったものがベストだぜ」
スカーレット    「カラミアさん……」
キリエ    「とてもいい言葉ですね。数分前に『お嬢さんへのプレゼントの参考にする』と言いはなった男のものとは思えません」
カラミア    「はは……。お嬢さんは、何をやっても喜びそうだからな。困ってるんだよ」
ソウ    「オレは、うーん……あ、そうだ。こっちで食べた料理を再現して、食べさせてあげようかな♪」
アクセル    「料理を再現……」
ソウ    「うん! 完璧にーってのは難しいかもだけど、似せることはできると思うんだ。オレ、料理得意だし!」
キリエ    「さすが、天然たらし犬ですね」
ソウ    「へへー♪ 照れちゃうなあ」
キリエ    「褒めてませんよ」
アクセル    「僕も、プレゼントを買うべきなのだろうか。だが、自分の分で手一杯だ、彼女の分もとなると、体が足りない……」
カラミア    「体が足りないって。まさか本気で、それ全部ひとりで全部食うつもりなのか?」
アクセル    「もちろんです」
スカーレット    「そんな、きっぱりと」
アクセル    「事実だからな」
ソウ    「彼女が欲しがったらどうするの? 『アクセルくん、ひとくち欲しいな☆』って」
アクセル    「それは……」
カラミア    「まさか断るのか?」
スカーレット    「自分の欲を優先するなんて」
キリエ    「男の風上にも置けませんね」
シーザー    「頭ゾウリムシだな」
アクセル    「い、言いたい放題すぎるぞ!」
アクセル    「ひとくちくらいなら、構わない……と思う。多分……きっと、おそらく……」
カラミア    「そこは言い切れっての。ったく」
カラミア    「お嬢さんへのプレゼント、何にすっかなー。……キリエは何にする?」
キリエ    「土産話、ですね。包み隠さず貴方達の話をしてあげようかと」
スカーレット    「いい予感がしないな……」
キリエ    「いいも悪いも。私は正直者です、真実しか述べませんよ」
キリエ    「アクセルが東京ナナナを買い占めた結果、東京は東京ナナナ難民で溢れかえり、東京ナナナをめぐるナナナ戦争が勃発したこと」
アクセル    「おい」
キリエ    「ナナナ戦争から撤退中、我らがボス・カラミアが流れナナナにあたり生死をさまよったこと」
キリエ    「一方、シーザーとソウは悪のナナナに精神を支配され、東京の半分を破壊したなどなど」
キリエ    「ありのままを語ってあげるつもりです」
ソウ    「うわあ、悪い笑顔だー」
ソウ    「シーザーさんは……」
シーザー    「なんだ」
ソウ    「えっと……やっぱりなんでもないです!」
シーザー    「はあ? ごまかすな。言いたいことがあるなら言え」
ソウ    「わかりました。シーザーさんなら、あの子に何をあげるのかなって思ったんです」
シーザー    「……」
ソウ    「でもでも、シーザーさんってプレゼントをあげたりするようなキャラじゃないですし。話したら怒らせるだけかなって――」
シーザー    「アクセサリーだ」
ソウ    「へ?」
シーザー    「ソウに金を出させて、アクセサリーを買う。それを渡す。俺ならそうする」
カラミア    「金を出させてってのは聞かなかったことにして。なかなかロマンチックじゃないか」
スカーレット    「ああ。正直、意外だ……」
シーザー    「フン。クソども、俺を見くびるな」
シーザー    「俺が選んだ、東京と文字が彫られてドッグタグ。気に入らんはずがない」
アクセル    「ドッグタグ……」
ソウ    「わ、なんというか……味わい深い……でもなく、うーんと……」
キリエ    「清々しいほどのクソダサセンスですね!」
ソウ    「キリエ、しーっ!!!」
シーザー    「なんだと」
カラミア    「どうどう、落ち着けー。こらキリエ、他人を貶めるな」
キリエ    「だって。シーザーのセンス、アリかナシかで言えば、ナシでしょう?」
カラミア    「それは、まあ……そうだが」
ソウ    「カラカラ~……」
カラミア    「だが。ほら、その……相手がお嬢さんなら、話は別だ」
カラミア    「シーザーの愉快なドッグタグだって、喜んで受け取ってくれるはずだぜ」
スカーレット    「うん。僕もそう思う」
スカーレット    「彼女のことを、僕はまだよく知らないが。笑顔で手に取ってくれることは容易に想像できる」
アクセル    「ああ。彼女ならきっと、喜んでレシートを……」
カラミア    「いや、レシートを渡すのはやめとけ」
アクセル    「だめですか」
カラミア    「はい、だめです。はは、ったく。お前ってやつは……」
カラミア    「本当はさー。お嬢さんも連れてきたかったよな」
キリエ    「ええ。少しだけですが、寂しいと思ってしまいますね」
ソウ    「へー。キリエにも寂しいって感情あるんだ? ……なんちゃって!」
キリエ    「ありますよ。雀の涙程度ですけどね」
キリエ    「記憶に刻まれているものすべてを語ったとしても、彼女にとってそれは夢物語でしかない」
キリエ    「ここから見える景色。鼻をかすめる匂い。耳に届く音。彼女にも直接体験してほしかったです」
キリエ    「……話すの、正直いって面倒ですし」
シーザー    「貴様……」
アクセル    「今の一言で台無しだ」
キリエ    「ふふ。言ったでしょう? 私は真実しか述べないと」
キリエ    「さあ、くだらない戯れはここまでにして、物語を進めましょう」
キリエ    「彼女に語るには、思い出の数がまだまだ足りませんから……ね?」

<終わり>

2017年3月 限定SS『幹部』アクセル・カラミア
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2016年7月 限定SS『幹部』
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「――でさー、その時のキリエさんってったらおっかないのなんのって」

 某日、小さな酒場にて。

 今日はカポレジームの親睦会……のような交流会のような。そんな感じだ。
 こういった場が得意でない僕だが、カラミアさんが設けた催しだ。欠席や早々の退場はできない。
 
 オズファミリーの頂点はボスであるカラミアさん。
 その下には――『下』というと、本人は怒るが――相談役のキリエ。
 そして、キリエの下には数名のカポレジームがついている。
 
 僕はカラミアさんやキリエと行動することが多いものの、ここにいる彼らと同じ階級。
 カポレジーム達は支配者層である僕へ遠慮しがちだが。僕としては、特別視は望ましくない。
 命令内容によっては共に行動することもある。
 その際、気を遣われては作戦に支障がでる。

(だから、積極的に混ざらなくてはいけないのだが……)

 口下手で無愛想な僕にはなかなかハードルが高い。むしろ高すぎる。
 かといって酒の勢いに任せるわけにもいかず、ただひたすら水を胃に流し込んでいる。

(これがスイーツビュッフェだったら……)

 彼らの言葉をBGMにスイーツを貪っているのに。
 時間の無駄――いや、なんと贅沢な使い方だろう。

「俺、今まで出会ったなかであれほど強烈な性格の人みたことがないわー」

 今日の彼らの話題の中心はキリエ。
 いかに性格が悪いか、どんな目にあっているかを言い合っている。
 僕の手前だ、控えめな表現を選んで話しているようだが。

(もっと素直に言えばいいのに)

 例えば……最悪カカシとか、最低人間とか。
 無知の僕には、この程度が限界だけど。
 とにかく、パンチが足りない。

「よお、楽しんでるか」

 貸し切りになっている酒場の扉が開き、あたりが一気に静まる。
 現れた人物は、緊張感をかき消すように「いやいや」と肩を竦めた。

「俺だ、俺。楽しい雰囲気を期待してたのに、冷やさないでくれ」
「カラミアさん」
「アクセル。また水飲んでんのか、無理しやがって」

 カラミアさんは扉を閉め、カウンターに座っている僕の隣に腰を下ろした。
 ウォッカをオーダーした後、テーブルに片肘をつき僕を見る。

「カラミアさんも混ざりに?」
「いいや。帰る途中に雨に降られてさ。体が冷えないように、いっぱい飲んでから帰ろうかと」

 なるほど。
 暗い店内だから気づかなかったが、外套が少し濡れている。

「どうぞ」と言い、店主はカラミアさんの前にショットグラスを置いた。
 カラミアさんはそれを手に取り、一気に飲み干す。

「いいですね、酒が飲めて」
「そうか? 俺は、病気と無縁っつー体質のほうがうらやましいがね。
 だが、一滴飲んだら豹変ってのは嫌かもな」
「嫌ですよ。強くなれればいいのに」
「飲み続けたら強くなれるかもしれないが、付き合ってはやれないな。
 軽傷どころの騒ぎじゃ済まなさそうだ」
「確かに」
「否定しないのかよ」

「事実ですから」と頷き、グラスの水を飲み干す。

「さて、そろそろ行くか。
 俺がここにいちゃ、アクセルの迷惑になる」
 
 迷惑?
 
 そんなことないと首を左右に振るも、カラミアさんは「あるんだよ」と笑う。

「今日は幹部の集いだ。ボスがいちゃ、気が休まらない」

「それに」と僕の肩を叩く。

「話し相手はここにはたくさんいる。楽しめよ、アクセル」

 カラミアさんは立ち上がり、テーブルの上に金貨を数枚置いた。

「店主、みんなに酒を。アクセルのおごりだ。
 じゃあな、アクセル。シラフだろうが、雰囲気には酔えるだろ」
「いえ、僕のおごりでは……」

 すべて言い終わる前に、カラミアさんは酒場を出ていってしまった。
 
 閉じた扉を、無言で見つめていると、店主が「どうします」と尋ねてきた。
 
 どうします、と言われても。
 酒に弱い僕に名案が浮かぶはずがない。

「僕は素人だ。店主に任せる」
「わかりました。みなさん、酒代はアクセルさんが持つそうで。
 好きなだけオーダーしてください」
「好きなだけ……?」
「これだけ金貨を頂戴したんです。
 すべての酒を飲み干したとしても、釣りが出ますよ」
「……そうか」

 まったくわからないが、店主が言うならそうだろう。

(僕のおごりではないんだが……)

 悶々とする僕の周囲に、幹部たちが集まってくる。

「アクセルさん、ごちそうさまです!」
「次の一杯はアクセルさんに捧げます!」
「いや、僕は……捧げられても……」

「困る」と言い切りたいところだが、場の空気を濁したくなく、言葉を飲み込む。

(酒に慣れるよりは、交友関係を広げるほうがまだ簡単なのだろうか)

 わからないが……カラミアさんがすることだ、意味あることに違いない。

 そうこうしているうちに酒が行き渡り、十数度目の乾杯が始まる。
 
 僕も水の入ったグラスを掲げながら、彼らに混じった。
 
 僕にとって交流会は、終わりの見えない長い夜。
 
 だが……今夜は少しだけ、短く感じるかもしれない。

<終わり>

 

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 素材と手間の関係でOZMAFIA!!ゲーム本編には幹部がアクセルしか出てこないのですが、

アクセルの他にも複数人存在し、その下にソルジャーがついています。

そのあたりの人間関係もいつか書いてみたいものです。

 

あとすこしでエイプリルフールですね!

今年はもう用意できていて、あとは時間が経つのを待つばかりです。

なんて優雅な3月末なんだ……。

さといさんに手伝ってもらい斜め上に頑張ったので(期待はずれだったら申し訳ないのでハードルは地面に埋めておいてください!)楽しんでいただけたらな~と思っています。おたのしみに!


ある朝、執務室にて。

 

「――キリエってさ、人を好きなったことあるのか?」

 

 用事を終え出ようとしたキリエの背中に、カラミアが投げかけた言葉。
  唐突な被弾を受け、キリエは振り返りながら「はあ?」と目を細めた。

 

「えーっと、人ってのは……ニンゲン? 動物じゃない方」
「『動物じゃない方』? 意味がわかりません」

 

 カラミアの雑な補足に、肩を竦ませる。

 

「なぜそんなクソくだらない質問をするのか、教えてください。
 答えるか否かはその内容次第です」
「内容次第って言われると、辛いんだが」

 

 執務机に両手をつき、立ち上がるカラミア。

 

「お前、たまに言われてるだろ。人でなしって」
「たまにではありません、頻繁にです」
「まあ……まあ、そうだな。うん」
「実際、人ではありませんし。
 人でなしと言われたところで『そうですよ』としか思いませんし
 痛くも痒くもありません、ノーダメです」
「……」

 

 少しの沈黙の後、カラミアは「なるほど」と呟いた。
  納得したのか、次の手を考えているのかわからないその態度に、
 キリエは「はあ」と大きなため息をつく。

 

「『人』というから面倒くさいんです、ややこしいんです、紛らわしいんです。
 『誰か』と言えばいいでしょう」

 

 ソファへ歩き、腰を下ろすキリエ。
「それで」と言いながら、テーブルを隔てた向かい側のソファを指差す。

 

「私が人外であることが
 カラミアの生活にどう影響を及ぼしているというのです」
「別に、さほど及ぼしちゃいないんだけどさ」

 

 促され、ソファに座るカラミア。
 『さほど』ということは、多少はあるらしい。

 キリエはあえて追求せず、カラミアの言葉を待つ。

 

「この間、祝日を新しく作っただろ?」
「祝日……」

 

 わざとらしく唇に指をあて、首を傾げる。

 

「ああ。『領民は理由がなくともカラミアをボコボコに殴っていい日』のことですか」
「ちげーし、ないしそんなの、怖すぎるだろ。
 嫌がらせみたいな祝日を作るな!」

 

 みたいな、ではなく嫌がらせそのものなのだが。
 無駄に心が広く、かつからかい甲斐がある男だと内心笑いながら、「祝日ねえ」と呟く。

 心当たりはある。
 
 当然だ。
 一度覚えたことは忘れない――忘れることができない体質なのだから。
 
「自分が世話になっている相手、大切な相手、縁や巡り合わせに感謝をする日のことですね」
「そう、それだ」

 

 カラミアは指を鳴らし、人差し指でキリエを指し示す。

 

「俺、該当すると思うんだよなあ」
「何に」
「『キリエが感謝すべき対象』に」

 

 聞き返すのも面倒に感じるほどの、馬鹿馬鹿しい考え。

 キリエはこめかみを押さえながら、ゆっくりと息を吐き出す。

 

「……『貴方が私に感謝する』というのならば、まだ理解できます」

 

 相談役として、一応――体裁上は上司であるカラミアを支えている。
 キリエとしてはカラミアに世話になっているつもりは微塵もない。
 むしろ世話をしている、感謝されるべき側だ。

 

「貴方は、私から何かを得たいがために祝日の作成を提案したのですか?
 ならば却下です、今からでも撤回します。
 領内中のカレンダーを回収し焼却処分します、当然カラミアのポケットマネーで――」
「してないし、違うし、回収しなくていい!」

 

 延々と続きそうなキリエ節を声を荒げて遮断する。

 

「俺は、だな。つまり……」
「つまり?」

「急かすなっての」と自身の髪をかきむしるカラミア。

「そういう祝日を作った俺達に、大切なヤツはいるのかって思ったんだ」
「ちなみに、カラミアは?」

 

 他人に尋ねる前に、まず自分のことを話せ。
 察したカラミアは、首を左右に振る。

 

「それが、難しいんだよな」

 

 座り直し、足を組み替える。

 

「『親愛』ってのはわかる。異性に対する愛ってのもさ。
 だが……俺達は支配者層だ。
 誰かを好きになったところで、同じ時間は過ごせても、同じだけ老いることができない。
 相手が弱っていって、やがて死ぬのをただ見てるしかない」

 

 死。
 自分達とは無縁であり、『人』が避けて通れないもの。
 自分のためには向き合う必要がなく、誰かのために向き合わなくてはいけないもの。

 

「そう思うとさ。誰かを好きになるのってリスクが高いよなって……。
 固執するほど好きな相手がいないから、そう思うだけかもしれないけどさ」

 カラミアは頬をかきながら笑い、「だから聞いてみた」と付け加える。

「お前ならどうなんだろうなって。
 ふと思っただけだ、深い意味はない」

「……弱虫ライオン」
「なっ」
「旅で『勇気』を得たくせに、なにビビってるんですか」
「ビビってるんじゃなくて、好きな相手がいないだけだ」
「さあ、どうでしょう。ただの言い訳じゃないですか?
 新品新品とアクセルをからかうくせに、自分自身はエクストラ新品だったりするんじゃないですかー?」
「キリエ~……」

 

 苦渋の表情のカラミアを笑いながら、すくっと立ち上がる。

 

「私だって、人を好きになることもあると思いますよ。奇跡が起これば、ですが」

 

 ……ということは、キリエも今は好きな相手がいないのか。
 得た情報を胸にしまいつつ、「それ、自分で言うか?」と笑ってみせる。
 

「当然。私、見た目はいいですが、中身は最悪ですので」

 

 自他共に認める事実を残し、歩き始める。

 

「私などを好きになる方は、とんだ変わり者だと思います」
「確かに。だがお前が気になるっつー女って意外と多いんだよなー」
「知っています。ですが、私の心は簡単には奪えません」

 

 ドアを開き――、

 

「というより、奪わせません」

 

 閉じて、出ていった。

 

「どういう意味だよ、それ」とぼやきながら、ソファの背もたれに背中を預けるカラミア。

「……誰かを好きになれば、あの性格も丸くなるのかね」

 

 そうあってほしいような、そうなってしまえばキリエじゃなくなるような。

 

「ま……変わるとしても、今日明日じゃない。当分先だろうな」

 

 友情はいいものだ。
 親愛も。信頼も。信じる相手がいるということは、いいものだ。

 

「だから、俺やキリエもいつかは――」

 

 たったひとりの相手を見つけて、恋に落ちることができたら。
 
 いつか失う愛であっても、恐れずに触れることができたら。
 
 双眸に映る世界はより鮮やかに輝くに違いない。
 

<終わり>

 

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かきおろしSS,今回はカラミアとキリエでした。

支配者層の恋愛問題は作中でも取扱が難しかった気がします。

アクセルを新品新品言っている二人はどうなのかと。

乙女ゲーム的には交際歴は清いほうがいいだろうけど、

マフィア作品的にはそこそこあったほうがいいんだよなーと悩みました。

 

最終的にはぼかした……と記憶しているのですが、

私のことなのでにじみでていたかもしれません。

 

おかげさまで、2月26日vita版OZMAFIA!!2周年を迎えました。

製作開始から7年、つまり小学2年生ですね。漢字も書けるお年頃です。

ハーメルンだって眼帯外すし、スカスカだって顔がスッキリする季節です。嘘です。

 

おまたせしているシークレットレイディオVol.3、

4月のイベント、6月にはPC版4周年と

それぞれ何かしらお伝えできることがありそうな予感です。

(レイディオはネタですが)

楽しみにお待ちいただけますと幸いです!

 

ゆーます


2017年1月 限定SS『ぐだぐだレイディオ パート2』カラミア・アクセル・ソウ
前回に引き続き、お蔵入りになったボイスドラマ台本の『キャラクターバージョンのGGR』です。

どんな組み合わせでも、キリエがいない組は平和だなと思います。

 

12月、1月と未使用シナリオの公開が続いたので2月はかきおろしのSS、

+シークレットレイディオvol.3を公開する予定です。

シークレットレイディオはいつもよりちょっと長めの24分です。

オズファミリーが揃うと3割増でぐだぐだとしてしまうようです(笑)

現在編集中です、楽しみにお待ち下さい!

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【カラミア】「(パーソナリティっぽく)ぐだぐだレイディオ、パート2!」

BGM:

【カラミア】「このコーナーでは寄せられたメッセージに真摯にそれなりに前向きにぐだぐだ~っと答えます。……って、言わなくてもAグループのやつを聞いてりゃ大体どんなのかわかるよな」
【カラミア】「Bグループのメンバーは、俺・カラミアとアクセル」
【アクセル】「はい」
【カラミア】「それからースカーレット!」
【スカーレット】「(そっけなく)よろしくお願いします」
【カラミア】「以上3名。それじゃ、張り切ってまいりましょう!」
【カラミア】「(しみじみと)はー……やー、いいなーこの空間」
【スカーレット】「いいって、なにが?」
【カラミア】「キリエがいないってことがだよ」
【アクセル】「そうですね。(げんなり)居れば厄介なことになりそうです」
【カラミア】「だよなー。Aグループのやりとり見てたけど、あれほぼ事故だろ?」
【スカーレット】「まあ……ソウは大変な思いをしたと思う」
【アクセル】「実際、していたに違いない。事実、涙目だった」
【カラミア】「なー、かわいそうにな。俺たちは俺たちで楽しくやっていこうぜ。キリエもいないことだしな、はは!」

SE:ガチャッ(ドアを開ける音)

【キリエ】「(笑顔で)呼びましたー?」
【カラミア】「(小声で)うっわなんで出てくんだよ」
【カラミア】「呼んでない、呼んでません、お引取りくださいキリエ様!」
【キリエ】「そうですか~? あのー、カラミア。ちょっとこちらへ来てください」
【カラミア】「(訝しげ)お、おう……。ふたりとも、少し待っててくれ」
【アクセル】「はい」
【スカーレット】「(アクセルと同時)わかった」

SE:足音(カラミアが入り口へ)

【カラミア】「なんだよキリエ、今、大事な仕事の最中だってのに……(ネクタイを引っ張られて)あぐぁ」
【キリエ】「(やや低め)そんなのどうだっていいですよ。その空っぽの頭にお似合いの、腐った耳の穴をかっぽじってよーくお聞きなさい」
【キリエ】「私の名前を口に出すときは、『のちのち何をされてもいい』と覚悟した上で、用法・用量を守って正しくお使い下さい。……いいですね?」
【カラミア】「(引き)はい……、承知いたしました」
【キリエ】「(笑顔・ネクタイを手放す)それはよかった。口約束ですのでいささか不安ですが……。(真顔)信じていますから裏切らないでくださいね、カラミア?」
【カラミア】「は、はーい。気をつけまーす」

SE:ガチャッ(ドアを閉じる音)
SE:足音(カラミアが戻ってくる)

【カラミア】「はー、おっかねぇ……。絞め殺されるかと思った……」
【スカーレット】「……カラミアさん。キリエさんと何を話してたんだ?」
【カラミア】「え? あー……(ごまかし)晩メシの話だ」
【スカーレット】「晩メシって……。(ムッ)コーナーを中断してまで伝えなくてはいけないことではないだろう」
【アクセル】「(シリアスに)そんなことはない」
【スカーレット】「どうして?」
【アクセル】「デザートの有無によって、僕の感情のコンディションが大きく変化するからだ」
【アクセル】「カラミアさん。夕食にスイーツは出ますか」
【カラミア】「あ? (思案)あー……そう、だな。(笑いながらやや面倒くさそうに)出るかもしれないし、出ないなら出ないで勝手に食えばいいんじゃないか、うん」
【アクセル】「(嬉しそうに)はい、勝手に食べます。……楽しみですね、夕食」
【スカーレット】「(ため息)期待を寄せるのは自由だが。その前に、やるべきことをやってくれ」
【アクセル】「やるべきこと……。(気づき)スイーツの発注か」
【スカーレット】「違う、コーナーの進行だ!」
【カラミア】「ああ、それだそれそれ。うっかり忘れてた」
【スカーレット】「カラミアさんまで……。はぁ、大丈夫かなこのグループ」
【カラミア】「(笑い)やー、大丈夫大丈夫。いけるって、俺たちなら乗り越えられる。なぁ、アクセル」
【アクセル】「はい。問題ありません」
【アクセル】「質問の書かれた紙を選んで読み上げ、内容に対し意見を述べる。これを各々が1度ずつ行う。……ですよね?」
【カラミア】「ああ、バッチリだ。こんなの楽勝だよな。気楽にいこうぜ、スカーレット!」

SE:背中をたたく(強め)

【スカーレット】「いっ。背中を叩かないでくれ……痛……」
【カラミア】「(うきうき)まずは俺からーっと」

SE:手のひら大の紙を開く

【カラミア】「『カラミアさんこんにちは』はい、こんにちはー! 『お風呂にしっかり入っているほうがモテますよ!』……風呂……」

SE:紙をとじる

【カラミア】「(苦笑い)うん。えーっと、次……次っと」
【スカーレット】「あっ。カラミアさん、答えずに紙を戻すなんて卑怯だ」
【カラミア】「いや、だってほら、俺、風呂はちょっと、はは……次ひいたやつには絶対答えるから。な?」
【スカーレット】「もう、仕方ないな……」

SE:手のひら大の紙を開く

【カラミア】「『カラミアさんへ。お風呂以外になにか苦手なことはありますか?』……。(爽やかに)みんな、風呂のことは忘れよう?」
【スカーレット】「……知らなかった。カラミアさんはお風呂が苦手だなんて」
【カラミア】「知らなくていいです、こんなこと!」
【スカーレット】「なぜなんだ? 入浴なんて生活習慣のひとつにすぎない、嫌がることではないはず」
【アクセル】「……ライオンだから、と」
【スカーレット】「ライオン?」
【アクセル】「ああ。元がライオンだから、濡れるのが嫌いらしい」
【スカーレット】「そうなのか……不思議だな。元がなんであれ今は人間なんだ、関係ないと思うが」
【カラミア】「んなこと言われても、生理的に無理なんだ。シャワー浴びる時なんか、背中に悪寒が走りまくってさ」
【スカーレット】「……そんなこと、起こりえるんだろうか」
【カラミア】「ああ、俺の場合はな。おまえだって、ちゃんとした理由もなしにオオカミが苦手なんだろ? それと一緒だ」
【スカーレット】「ん……。オオカミのことを指摘されると、反論できない」
【スカーレット】「それで。お風呂が苦手だということは理解したが、大切なのは質問に対する答えだ」
【アクセル】「カラミアさん、入浴以外に苦手なことを教えて下さい」
【カラミア】「ふっ……そりゃあれだ。(キリッ)女の涙、だな」
【アクセル】「なるほど」
【スカーレット】「わかった。それじゃ次は(アクセルさん――)」
【カラミア】「(スカーレットにかぶせる)おいおい、今のは『キザだ』とか『それはない』とかツッコミいれるトコだっつーの。このままじゃ俺、ただの痛い奴だろ」
【アクセル】「そう言われても……。僕自身、女性に泣かれるのは苦手です。疑問という疑問は……、特にはないかと」
【スカーレット】「同意だ。カラミアさんの言ったことはもっともだと思う」
【カラミア】「そ、そうか……? なら、いいけどよ……」
【カラミア】「(小声)キリエがいない空間は平和だと思ったものの、真面目っ子に挟まれるってのもなかなかやりにくいな……」
【アクセル】「カラミアさん、続けていいですか」
【カラミア】「お、おう。次はアクセルだな」

SE:手のひら大の紙を開く

【アクセル】「僕は意見を述べるのが苦手だ。変わった質問でなければいいのだが……」

【アクセル】「(※原文ママです、適度に……)『アクセルくん!!!好きです!!!!!!大好きです!!!!!!!!!一生分の砂糖とはちみつとジャムと練乳と生クリームとアイスとキャンディーとメレンゲと綿菓子とチョコとクッキーとケーキを用意するのでいっしょに幸せに暮らしたいです』……とのことです」
【スカーレット】「(やや引き)ん……なんといえばいいかその……情熱的なメッセージだな……」
【カラミア】「一緒に暮らすってことは、結婚してくれってことか。(笑い)さすがのアクセルも、菓子につられて結婚ってのは――」
【アクセル】「あああ……」
【カラミア】「な、なに頭抱えてんだよ。おまえまさか、迷ってるんじゃないだろうな」
【アクセル】「……その、まさかです」
【カラミア】「(呆れ)はーあ?」
【アクセル】「(苦しそうに)一生涯分と言われれば僕は……抗えないかもしれません」
【スカーレット】「(呆れ)抗えないって……。相手の素性が全くわからないのに、どうしてそう思えるんだ」
【アクセル】「一生分の砂糖とはちみつとジャムと練乳と生クリームとアイスとキャンディーとメレンゲと綿菓子とチョコとクッキーとケーキだぞ、迷うに決まっている!」
【スカーレット】「……ッ、耳元で叫ばないでくれ。……アクセルさんは、菓子のためならなんでもするのか?」
【アクセル】「(キリッ)もちろんだ」
【スカーレット】「即答、だと……!」
【カラミア】「ごめんなー、スカーレット。こいつ、甘いものにはほんっっっと弱くて」
【スカーレット】「いや、僕に害が及ばない限りは構わないが……弱いにも限度というものがあるだろう。菓子の提供を条件に結婚だなんて、僕には絶対無理だ」
【カラミア】「同感だ。たまーにだが、アクセルは甘いもんに関わる仕事に転職したほうがいいんじゃないかって思う時がある」
【アクセル】「カラミアさん……それはつまり、ファミリーを去れということですか」
【カラミア】「いやいや、そんな深刻な話じゃないって。例えばそうだな……庭の隅に養蜂場を作って、おまえが世話をするとかさ」
【カラミア】「マフィアの作ったハチミツだっつって領内でさばくんだ。バカ売れするかもしれないぜ?」
【アクセル】「……その計画は、既にキリエに提案しました」
【カラミア】「え、マジかよ。で、キリエはなんつってた?」
【アクセル】「何も言われていません。目の前で計画書を破られ、暖炉で燃やされました」
【スカーレット】「それは、むごい……」
【カラミア】「キリエらしいと言えば、キリエらしいんだが……。あいつが嫌がるなら、実現は難しそうだな」
【アクセル】「はい。でもいつかは実行してみたいと考えています。……自室であれば、蜂を育てても許されるでしょうか」
【カラミア】「いやいや、やめとけ。あいつの部屋近いだろ、バレたら怒られるどころじゃない」
【カラミア】「っと、話が横道にそれてるな。で、アクセル。質問への答えは?」
【アクセル】「……。検討しておく、ということにしておいてください」
【カラミア】「了解。そういうことらしいぜ、よかったな! じゃ、最後。スカーレット」
【スカーレット】「うん、わかった」
【スカーレット】「……? 僕のだけ、質問の紙が多くないか」
【カラミア】「だな。(笑い)それだけ好かれてるってことだ」
【スカーレット】「そうか? それは……(照れ)ありがたいこと、だけど」

SE:手のひら大の紙を開く

【スカーレット】「えっと……『スカーレットくん、身長がこれから先もたぶん変わらないであろう件、気を落とさないでください』」
【スカーレット】「……」

SE:紙をくしゃくしゃに丸める

【カラミア】「おい、なにしてんだよ」
【スカーレット】「(不機嫌そうに)これは、無効だ」
【アクセル】「有効だろう。ちゃんとした文章だった」
【スカーレット】「このコーナーの趣旨は質問に答えることだろう? 書かれていたのは質問ではなく意見だった。……だから無効だ」

SE:手のひら大の紙を開く

【スカーレット】「今度こそ……(気づき)!」

SE:紙をくしゃくしゃに丸める

【カラミア】「はい、ちょっと待った」

SE:紙を没収

【スカーレット】「あっ!?」
【カラミア】「(お兄さんぶって)内容を口に出すことなく隠蔽しようってのは、失礼だと思いますよスカーレット君?」
【スカーレット】「か、返してくれ! それは僕のものだ!」
【カラミア】「捨てようとしたんだ、所有権を主張されても説得力がないってな。(片手で投げる)ほらよ、アクセル!」

SE:紙の玉を投げる
SE:紙の玉を受け取る

【アクセル】「(片手で受け止める)はい」
【カラミア】「ナーイスキャッチ。ついでに読んでくれ」
【アクセル】「了解。(咳払い)『スカーレットくんの身長はいつ止まったんですか?』」
【スカーレット】「ああああ……」
【アクセル】「……いつ、止まったんですか?」
【スカーレット】「う、うるさい」
【カラミア】「いつ止まったんですか、スカーレット君」
【スカーレット】「だまってくれ! ……どうしてみんな、僕の気にしていることばかり指摘するんだ」
【カラミア】「(笑い)そんなもんだって。(げんなり)俺だってさっき、風呂のこと言われたしな……」
【カラミア】「そうやって気にするから、しつこくツッコまれるんだ。いっそのこと、長所だと思って開き直ればどうだ?」
【スカーレット】「長所……?」
【カラミア】「そうそう。小さいから得したこととか、少しはあるんじゃないか?」
【スカーレット】「そんなことを言われても……急には答えられない。短所だと思っているし、大きくなることしか考えていなかったから」
【アクセル】「……僕なら、答えられる」
【スカーレット】「え、本当に?」
【アクセル】「ああ。ずっと、うらやましいと思っていた」
【スカーレット】「アクセルさんがうらやましいと思うような利点……。一体なんなんだ、見当がつかない」
【アクセル】「テレポート能力だ」
【カラミア】「テレポート……なんだって?」
【スカーレット】「……。意味がよくわからない」
【アクセル】「無意識でしているというのか? 驚きだ……」
【スカーレット】「驚きたいのはこっちだ。一体、なんのことを言っているんだ」
【アクセル】「おまえは、僕の視界から頻繁に消えるだろう」
【スカーレット】「視界から……?」
【アクセル】「ああ。遠くにいると思えばふっと消え、気づけばすぐそばにいる。……まるで暗殺者のように」
【アクセル】「(はっ)まさか、暗殺者なのか!?」
【スカーレット】「っ、ちがう」
【アクセル】「(真顔)……だったら、どうして能力を使って空間をゆがめて僕に近づいてくるんだ」
【スカーレット】「能力といわれても……。意味がわからないし、空間を歪めるなんて僕にはできない」
【アクセル】「だが、存在を消しながら歩くだろう。それはきっと、小さいからだ」
【スカーレット】「そういうこともあるけど。用があるときは普通に歩いて……あ」
【カラミア】「どうした、スカーレット」
【スカーレット】「能力がどうのとか、まったく関係ない。僕が小さすぎて、アクセルさんの視界に入っていないだけだ」
【スカーレット】「不快だ。僕はもう帰る!」
【カラミア】「お、おい、スカーレット。待てって、まだコーナーが終わっちゃいないだろ」
【スカーレット】「いいや、待たない。質問にはアクセルさんが答えただろう」
【アクセル】「……ッ、消えた……?」
【スカーレット】「! いい加減にしてくれ!!」
【カラミア】「おい、スカーレット――」

SE:ドア閉じる

【カラミア】「はあ、行っちまった。アクセルくん、どうしてあんな挑発的なことを言ってしまったんですか」
【アクセル】「……挑発的でしたか」
【カラミア】「ああ、キリエの嫌味みたいだった」
【アクセル】「キリエと一緒……。それは嫌ですね、すごく。……ですが、カラミアさんも経験ありませんか」
【カラミア】「経験?」
【アクセル】「はい。視界からスカーレットが消える経験です」
【カラミア】「……ここだけの話、何度かある」
【アクセル】「(胸なでおろす)よかった、僕だけではなかったんですね」
【カラミア】「あいつ小さいもんな。――っといけない、また話が横道それちまってる」
【カラミア】「質問には全部こたえたから……よし、任務完了だ。アクセル、俺たちも帰ろうぜ」
【アクセル】「はい。……長話で喉が乾きました。ソーダフロートが飲みたいです」
【カラミア】「余計ノド乾きそうだな、それ……」

 

<終わり>

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